なぜ、こんな簡単なことに気が付かなかったのだろう。
彼は王太子で、遊び相手は貞節を求められる貴族令嬢で娼婦ではない。

自分から攻めることには慣れているが、攻められることには慣れていない。
経験したことないことをすることに抵抗を持つ性格。

気持ちがないのに口づけをされるのが嫌なら、こちらが攻めまくって縮こまらせてやれば良いのだ。

口づけなど例え彼を好きになったとしても、結婚式まで絶対にしたくない。
私の価値観は気高く貞節を尽くす帝国の高位貴族令嬢のものなのだ。

「レイモンド、そういえば良く私の部屋に入ることをアゼンタイン侯爵夫妻がお許しになりましたね? 何か言ったのですか?」
私は彼の胸に寄りかかりながら、彼を見上げた。

顔を赤くして、私から目を逸らしている。
やはり、私の企みは成功しているようだ。

「特に何も言ってませんよ。入ることの許されない部屋などあるのですか?」

慣れないシチュエーションに緊張しだしたのか掠れた声で聞いてくる彼の言葉に、彼が知らずに王族の権力をたてに未婚の貴族令嬢の部屋に入っていることがわかった。