「私はフィリップ王子の考え方に感銘を受けて、衝動的に騎士の誓いをたててしまったことがあるのです。そんな私の不審な行動を目にしたら、普通は変な女だと思い遠ざけますよね。彼は、私の奇行を目撃した後も親切に接し続けてくれるのです。まるで神様のように慈悲深いお方です。やはり問題のあるお兄様をがいることで苦労してきたから、海のように広いお心を持つ方になったのでしょうか。そのため、10歳からの恋心が全く冷めなくなっています⋯⋯」
私は黒髪から覗くレイモンドの海色の瞳を眺めながら、フィリップ王子のことを思い出していた。

「では、エレノアが評価しているフィリップの性格は私のおかげで形成されたという訳ですね。彼の性格によって恋心が冷めないのであれば、やはりその責任は私にあるようです」

レイモンドは私の髪に指を通し私の頭を彼の顔に近づけてくる。
口づけがしたいのが丸わかりだ。
魅了の力がかかった瞬間を意識できるという天才レベルの頭脳を持ちながら、そのほとんどは色欲に侵されているようだ。

「レイモンド、いい加減私の話をまともに聞いてくれませんか?実は魅了の力の情報についてはカルマン公爵家の紫色の瞳をもった女には引き継がれています。それによると、レイモンドのように魅了の力にかかった瞬間に気がつける人はかなりの天才だけです。あなたはとても優秀な人なのですよ。だから私があなたの天才的な頭脳を頼りにして、言いたくない秘密も明かしながら相談を持ちかけているのです。それなのに、あなたの頭の中はいやらしいことばかり考えています。私はそれに失望しています。その神からの贈り物のような頭脳をサム国の民に捧げ、できれば私の相談にものって欲しいのです」

私は今、彼に相談にのって欲しいと期待している。
おそらく魅了の力を使ってしまっているのに、彼は私に操られているそぶりがない。

「私にまともに相談にのって欲しいならば、そんな可愛い声で甘えるようにおねだりしてくるのはやめることですね」

彼はそういうと、私の頬に軽く口づけしてくる。