「エレノア、とてもあなたを心配していますという態度で私が最初に接すれば今頃あなたと心が通じていたのですね。失敗しました。もう、アカデミーの通学は諦めて、王宮で花嫁修行に入ったらどうですか?」

レイモンドは話しやすいからたくさんのことを話してしまうけれども、彼の今の返答はどこかずれている。

彼のずば抜けた知能ならばもっと良い解決策を見つけ出せるはずなのに、今は頭の半分以上で私と口づけすることを考えていて真剣に私の話を聞いてくれていないのがわかる。

「レイモンド、あなた真剣に考えてくれていますか? 王宮と言えば、フィリップ王子のお家ではないですか。出会す頻度が格段に増えて、危険度が増しますよね。それに、私に侯爵になる道という選択肢までくれたアゼンタイン侯爵夫人の想いに応える意味でもアカデミーは絶対に卒業します」

実の娘ではない私に後継者になる道まで用意してくれたのだ、それを途中で投げ出すなどあり得ない話だ。

「分かりました。フィリップのことは私が忘れさせます」
レイモンドはまた私の頬を撫でて、口づけをしようとしてきた。
やっぱり彼は私と口づけする機会を伺っていただけだった。

彼はどうしてこんなにも分かりやすいのだろう。
何を考えているかわからない人は苦手なので、分かりやすい彼の側は居心地が良い。