兄上は本当にサム国の伝統を変えてしまうかもしれない。

でも、兄上のように女性に興味が湧いたことのない僕には彼の言うことも一理あるように思えていた。
兄上の婚約者候補がお茶会をして待っているとのことで、その場に向かった。

「孤児院の野良猫の言葉としてお聞きください。私が王妃様ならそのような検査をさせられる時点で夫とは離縁いたしますわ」

お茶会の中に1人だけ小さな少女がいた。
10歳のアゼンタイン侯爵令嬢だ、周りに20人以上の貴族令嬢がいるのに彼女がいるだけで彼女にしか目がいかなくなる。

彼女は隠せないくらいの高貴なオーラに溢れていた。
薄紫色のウェーブ髪に赤紫色の瞳、その愛らしさから彼女は紫陽花姫と呼ばれていた。
彼女の出身が孤児院だとは聞いていたが、孤児院の野良猫だと呼ぶような酷い人間もいるのだろうか。

「兄上、侯爵令嬢が言いたいのは⋯⋯」
僕が言おうとした言葉を遮るように兄上が言った。

「この間帝国の建国祭でエレノア・カルマンを見て来たんだ。アゼンタイン侯爵令嬢と似た風貌だったけれど人形のような娘だった。エレノア・アゼンタインが孤児院の野良猫? 誰がどう見ても彼女以上の女がこの場にいるか? 本物の帝国の公女は目の前にいるエレノア・アゼンタインだろう」

エレノアが言及しているのは、兄上の血筋に関する話だった。
水晶に手をかざすとその人間と血縁の者かどうかがわかるという話で兄上の血筋を確認したいという話が出たのだ。
父上はプラチナブロンドの髪色に海色の瞳、母上は黒髪に灰色の瞳をしていた。

父上の兄上に当たる方が黒髪に海色の瞳をしていたがために、兄上を蹴落としたい人間か血筋の確認をしたいとの声が上がった。