うすい黄金(こがね)の肌の色彩を、白いキャンバスに作り出すたび、俺は十年前のみじかい秋の日々の、一つひとつを思い出す。中心だけ赤く濁ったビー玉を、てのひらで転がすように。

 まだ葉は緑を残し、徐々に枯れて細胞が死んでいく過程を、あざやかな色彩で、一瞬だけ、燃えあがってあらわしていた。

 俺がそれまでいたアトリエは、外のかすかに冷えて澄んだ透明な秋に染まらず、いつだって平坦なモノクロだった。毎年訪れるそのいろに慣れていたというのに、あのひととの会話が始まってから、いずみが湧くように、足元から滲んで侵食していった。

 四角い窓からこぼれる雲ひとつない薄水(うすみず)の空が、俺たちの砦の確かな色彩だった。

 俺は裸の女を描くたび、あのひとのことを思い出す。芳醇(ほうじゅん)な果実のような胸の曲線、ひかりをためた薄黄金の、鎖骨のくっきりとした(くぼ)み。水仙(すいせん)の茎のように伸びて、安定感のある長い首のライン。丸い後頭部を覆う、かがやいて燃え、端からひかりに溶けて消えてゆく、波うつ深い橙色(だいだいいろ)の長い髪。

 あのひとを描いていた時の俺は、ふれてめちゃくちゃにしたかったのか、やさしく抱きしめたかったのか。今となってはその感情がよくわからない。

 ただ鉛筆のすべりとゆびさきだけが一体となって、あのひとの、あのときをとらえようとしていた。

 俺が燃えて消えるのか、あのひとが燃えて消えるのか、徐々に勢いを増してかすれた音を立てる黒い筆先が、答えを導き出そうとしていた。

 金がなく、ただ時間だけを持て余していたというのに、何かに追われて焦っていた十七歳の秋。二度と戻らない金色の時間(とき)。俺にはざらついた画用紙と、芯を長く削った鉛筆と、あの女の裸体だけがすべてだった。