「あなたじゃなきゃ、駄目なんです」
 涙で震える声でそう告げた瞬間、蓮の瞳に強い光が宿った。

 十年前、何も言えずに背を向けた彼が――いま、ようやく私をまっすぐに見つめている。



 「……紗良」
 低く優しい声が胸に沁み込む。
 「俺もずっと……お前しか見ていなかった。
 守れないと決めつけて、勝手に突き放した。
 本当は、誰よりもお前を求めていたのに」

 その告白に、堰を切ったように涙が溢れた。

 「私も……ずっとあなたが好きでした。
 傷ついても、忘れられなくて……何度も心が折れそうになっても、想い続けてきたんです」



 気づけば、蓮の腕が私を抱き締めていた。
 強く、でも震えるほど切実に。

 「もう二度と離さない」
 耳元に囁かれた声が熱を帯び、全身を包み込む。

 「俺のそばにいてくれ。……これから先、何があっても」



 「はい……ずっと、隣に」
 言葉を返した瞬間、唇が重なった。

 それは十年越しの、ようやく辿り着いた口づけ。
 涙の味さえ、甘くて愛おしかった。



 「紗良」
 額を合わせ、彼が囁く。
 「俺と……結婚してほしい」

 「……はい」
 頬を濡らした涙のまま、笑顔で頷いた。



 ――永遠の誓い。
 すれ違いと誤解を乗り越えた二人の心は、今度こそ固く結ばれた。

 十年前に叶わなかった想いが、ようやく未来へと繋がっていく。