昼休みの食堂。
 席を見つけられずに立ち尽くす私の隣に、佐伯が自然に並んだ。

 「一緒に食べよう」
 温かい声とともに、彼は迷いなく私のトレーを受け取り、窓際の席へ導いてくれた。

 「誰に何を言われても、気にするな。君は君だ」
 その言葉に胸が熱くなり、視界がにじむ。



 笑顔を見せようとした瞬間、ふと視線を感じた。
 顔を上げると、食堂の奥に蓮の姿があった。
 無表情のようでいて、鋭く揺れる瞳がこちらを見つめている。

 その視線には、抑え込まれた苛立ちと嫉妬が滲んでいた。



 午後の会議。
 佐伯が発言するたびに、蓮の表情がわずかに険しくなるのを感じた。
 「彼女の提案は有効です」
 佐伯の言葉に、周囲の同僚が頷く。

 だが蓮は低く遮った。
 「根拠が甘い。再検討だ」
 冷たく突き放す声。
 まるで佐伯を否定することで、私を遠ざけようとしているように思えた。



 会議後、廊下で背後から声がした。
 「……西園寺」
 振り返ると、蓮が立っていた。

 「……佐伯と、最近よく一緒にいるな」
 低い声。
 問いかけではなく、咎めるような響きだった。

 「彼は、私を支えてくれているだけです」
 必死に言葉を重ねる。
 けれど彼は苦々しげに視線を逸らした。

 「……支えが必要なほど、俺は無力ってことか」



 胸が張り裂けそうになった。
 「違います! 私はただ……」
 必死に声を上げたのに、蓮は冷たい沈黙で答えを遮った。

 その瞳に宿っていたのは、愛と嫉妬の狭間で揺れる複雑な色。
 それを読み取るたびに、私の心はますます乱れていく。



 ――嫉妬に揺れる蓮の視線。
 それは拒絶よりも痛く、優しさよりも残酷だった。