「俺は、君を守れなかった」
その言葉が頭から離れなかった。
十年前の突然の別れ。
彼は私を突き放しただけだと思っていた。
けれど本当は――私が陰でどんなに傷つけられていたかを知りながら、彼は何もできなかった。
その罪悪感が、彼を今も縛っている。
夜のオフィス。
誰もいない会議室で向かい合った私たちは、互いに目を逸らせずにいた。
「部長……私はもう、あの頃の私じゃありません。
ただ待つだけで、理由も知らずに泣いていた子どもじゃない」
勇気を振り絞り、言葉を重ねる。
「だから、今度こそ教えてください。……何を背負っているのか」
沈黙のあと、彼は深く息を吐いた。
「……十年前。俺は婚約していた。相手は取引先の重役の娘だった」
やはり――噂は本当だった。
「だが、その婚約は俺に選ぶ余地はなかった。
家も、会社も、俺に求めたのは“政略”だけだった」
唇を強く噛む。
「君と一緒にいることは、俺の立場を危うくした。
そして……君は陰で“邪魔者”と呼ばれ、酷い言葉を浴びせられていた」
胸が軋んだ。
「……知っていたんですね」
絞り出す声に、彼は苦しげに頷いた。
「知っていたのに、俺は何もできなかった。
ただ、自分の立場を守ることに必死で……君を守ることができなかった」
彼の声はかすれていた。
「だから、俺は君を傷つけた。……許されない」
「違います!」
気づけば叫んでいた。
「私が一番苦しかったのは、理由を知らされなかったことです。
ただ置き去りにされたことが、何よりも痛かった」
頬を涙が伝う。
「あなたに守ってもらえなかったことよりも……
私に“愛している”と一度も言ってくれなかったことが、苦しかった」
彼の目が揺れた。
「……愛していた」
掠れた声が、夜の会議室に零れる。
「だが、その言葉を口にすることは、君をさらに傷つけると思った。
俺が傍にいればいるほど、君は狙われ、孤立していった。
だから……俺は別れを選んだ」
その告白に、胸が張り裂けそうになった。
十年越しの真実。
――彼は、愛していたからこそ手放したのだ。
「……許されないのは、あの頃の私を信じてくれなかったことです」
涙に濡れた声で呟く。
「でも、まだ遅くない。過去をやり直すことはできなくても、これからを作ることはできる」
彼は息を呑み、言葉を失った。
静まり返った会議室に、雨音だけが響いていた。
その言葉が頭から離れなかった。
十年前の突然の別れ。
彼は私を突き放しただけだと思っていた。
けれど本当は――私が陰でどんなに傷つけられていたかを知りながら、彼は何もできなかった。
その罪悪感が、彼を今も縛っている。
夜のオフィス。
誰もいない会議室で向かい合った私たちは、互いに目を逸らせずにいた。
「部長……私はもう、あの頃の私じゃありません。
ただ待つだけで、理由も知らずに泣いていた子どもじゃない」
勇気を振り絞り、言葉を重ねる。
「だから、今度こそ教えてください。……何を背負っているのか」
沈黙のあと、彼は深く息を吐いた。
「……十年前。俺は婚約していた。相手は取引先の重役の娘だった」
やはり――噂は本当だった。
「だが、その婚約は俺に選ぶ余地はなかった。
家も、会社も、俺に求めたのは“政略”だけだった」
唇を強く噛む。
「君と一緒にいることは、俺の立場を危うくした。
そして……君は陰で“邪魔者”と呼ばれ、酷い言葉を浴びせられていた」
胸が軋んだ。
「……知っていたんですね」
絞り出す声に、彼は苦しげに頷いた。
「知っていたのに、俺は何もできなかった。
ただ、自分の立場を守ることに必死で……君を守ることができなかった」
彼の声はかすれていた。
「だから、俺は君を傷つけた。……許されない」
「違います!」
気づけば叫んでいた。
「私が一番苦しかったのは、理由を知らされなかったことです。
ただ置き去りにされたことが、何よりも痛かった」
頬を涙が伝う。
「あなたに守ってもらえなかったことよりも……
私に“愛している”と一度も言ってくれなかったことが、苦しかった」
彼の目が揺れた。
「……愛していた」
掠れた声が、夜の会議室に零れる。
「だが、その言葉を口にすることは、君をさらに傷つけると思った。
俺が傍にいればいるほど、君は狙われ、孤立していった。
だから……俺は別れを選んだ」
その告白に、胸が張り裂けそうになった。
十年越しの真実。
――彼は、愛していたからこそ手放したのだ。
「……許されないのは、あの頃の私を信じてくれなかったことです」
涙に濡れた声で呟く。
「でも、まだ遅くない。過去をやり直すことはできなくても、これからを作ることはできる」
彼は息を呑み、言葉を失った。
静まり返った会議室に、雨音だけが響いていた。

