生贄にされた女たちは二度と村へは帰ってこないと言う。
神社に祭られている神様は龍の神様でとても恐い顔をしていると言われている。
大きな口で生贄を一飲みしてしまうとも噂されているのだ。
しかし杏は恐いとは思っていなかった。
むしろ自分なんかが神様の生贄になれることに喜びも感じていた。
自分は神様に食べられてしまうかも知れないが、村の役に立って死ねると思ったらなんだか誇らしくも感じている。
そしてお母さんのところへ行けることがなにより嬉しくもあった。
生贄になるその日まであと一週間と言われた。
そんな杏が不憫で見ていられないお多恵はとうとう杏に声を掛けた。
そして誰もいない台所へと連れて行くと台所の裏口の戸を開けたのだ。
「杏、ここからお逃げ!あんたはまだ若いんだ生贄になって死ぬことは無いよ。さぁ!」
しかし杏は大きく首を横に振ったのだ。
「女中頭様、私は逃げたりしません、むしろ村の人達のお役に立てるのならこの命を喜んで差し出します。」
「杏、おまえは皆から酷い仕打ちを受けているのになぜそんな事が言えるんだい。」
「私は生きていても何もできず無能ですから。せめて最後くらいは何か皆さまのお役にたてれば本望です。」
お多恵は杏を見つめて目に涙を溢れさせていた。
「本当に願いを叶えてくれる神様がいたらお前も幸せになれたかも知れないのに…杏。」
「女中頭様、ありがとうございます。そのお気持ちだけでとても嬉しいです。」



