私なんかが神様のお嫁さんになりました


豊穣姫は大神様の言葉に信じられないという表情をした。

「こ…この私が出て行くとは…何を仰っているのですか…」

「確かにそなたの父親である大豊穣神殿と我は古くからの友人で、お互いに子供が出来たら子供達同士を結婚させようと約束した。しかしその話には続きがあるのだ。…ただし子供たちのどちらかが他の者と結婚を望むならそれを反対しない。そしてもう一つ大事なことは、どちらかの子供が我たちと異なる考えを持った時は結婚の約束も破棄できるということだ。」

「そ…そんなこと…私はお父様から聞いてないわ!勝手な事言わないで!」

大神様は目を閉じてゆっくりと首を横に振ったのだった。

豊穣姫は勢いよく立ち上がった。

「私は諦めませんから!白龍神様の妻に相応しいのは誰かわからせてあげるわ!」

豊穣姫は控えていた御付きの者達に声を掛けるとすぐに部屋から出て行ったのだった。

突然の出来事に驚き固まっていた杏。
そんな杏に大神様は優しく声を掛けた。

「驚かせて悪かったな…そなたは杏といったな。そなたの噂は耳に入っているぞ。」

杏はその場で畳に額が付くほど深くお辞儀をした。

「私のせいでご迷惑をかけているのなら、すぐに出て行きます。私なんかがこの場所に来るべきでは無かったのです。申し訳ございません。」

すると大神様は大きく声をあげて笑ったのだった。

「杏よ、何を言うのかと思ったら、とんでもない勘違いをしておるぞ。」

「…勘違いとは…」

恐縮している杏に白様のお母様が声を出した。

「杏、頭を上げてちょうだい。私達はあなたを追い出すなんてちっとも思っていないわよ。むしろ白のお嫁さんがあなたで良かったと思っているのよ。」

「…私は何も力のない人間ですし、何のとりえもないので…」

白様のお母様は笑顔で突然に歌を歌い始めた。
その歌を聞いて杏は目を大きくして驚きの表情をする。

「…その歌は!」

なんとその歌は杏が神社に祈りを捧げながら歌ったあのうただったのだ。
杏の母親が教えてくれたあの、ひふみよと数えるような歌だったのだ。

白様のお母様はいたずらな表情をして杏を見た。

「私はこの歌を捧げてくれる女の子を探していたの…杏はその子を知ってる?」

「それは…あの…私が母から教わった歌で…自己流の祈りでした。」

白様は杏に近寄り肩に手を置いた。

「あの祈りの声は、私達のところに届いていたんだ。そしてその心地よい歌声と心のこもった歌詞に感動していた。人間からの清い想いは我たちにとって何よりの宝物だ。」

「白様、…私はここに居て良いのでしょうか。」

「もちろんだよ。父も母も杏があの祈りの少女だと聞いて喜んでくれていたんだ。」

杏は突然にぽろぽろと大粒の涙を流し始めた。

白様はその様子に慌てている。

「杏、どうしてそんなに泣くのだい…我が泣かしてしまったのか?」

杏は大きく首をふるふると横に振った。

「違うのです…私の歌や祈りが神様に届いていたなんて…とても嬉しくて…嬉しくて。」