「さぁ、お食事の支度も出来ております。杏様参りましょう。」
身支度を整えた杏は女性達に手を引かれて部屋を出た。
そして案内された部屋に入るとそこにはもうすでに神様が座っていたのだ。
「杏、待っていたぞ。さぁ座るがよい。」
神様と並べて置かれたお膳に杏は座るように言われる。
しかし、恐れ多いと思った杏はその場で深く頭を下げた。
財前家に居た時は皆の食事が終わった後に台所の残り物を少し分けてもらえるだけだったのだ。
皆と同じ部屋に並んで座るなど杏には考えられないのだ。
「神様、わたしのような卑しい身分の者がお隣に座るなどできません。」
すると神様は大きな溜息をつくのだった。
「なんども言っておるが、杏は我の嫁だぞ。卑しいなんて言うでない。…ほれ気にせず我の隣に座ってくれ。」
神様は自分の隣の席をポンポンと叩いてここに座れと言っている。
恐るおそる神様の隣に座る杏。
杏は緊張のあまりふるふると震えていた。
神様は改めて杏の姿を見て目を細めた。
杏は桃色の小菊を散りばめた美しい着物を着せてもらい、髪にも小菊の簪をつけてる。
「思っていた通りその着物は良く似合っておる。髪も結い上げて誠に愛いぞ。」
「あ…あの…ありがとうございます。」
「さぁ、冷めないうちに食べよう。杏の口に合うと良いのだが。杏は痩せているから沢山食べて太るがいい。」
杏は温かいお吸い物を少し口に入れた。
丁寧に出汁をとって作られたお吸い物は口に入れた瞬間に香りが体に沁みこむようだ。
それは今まで食べたことの無い美味しさだったのだ。
杏は自分でも分からないが涙が自然と流れて来るのを感じた。
「神様…とても美味しいです。ありがとうございます。」



