翌日の朝。
オフィスに入った瞬間から、結衣の胸は重かった。
昨日の言葉が頭から離れない。
——「部長は、美月とお似合いですよ」
吐き出した自分の声が耳に蘇るたび、心臓が締めつけられる。
あれは本心じゃない。
けれど許せない気持ちと嫉妬が重なり、どうしようもなく口をついて出てしまった。
(どうして……私はいつも逃げてばかり)
席に着いても手元が震え、文字が頭に入らない。
気づけば、また資料の端をカリカリとこすっていた。
ふと視線を感じ、顔を上げる。
遠くの席から、悠真がこちらを見ていた。
真剣で、迷いを含んだ眼差し。
結衣は慌てて視線を逸らした。
その日の午後、突然の来客があった。
取引先の担当者として現れたのは、美月だった。
淡いベージュのスーツに身を包み、落ち着いた大人の女性の雰囲気をまとっている。
「お久しぶりです、部長」
「……ああ」
悠真が応対する姿を、遠目に見ていた結衣の胸は痛んだ。
やはり二人は、自然に並び立っているように見える。
(また……。やっぱり二人は繋がってる。お似合いなんだ)
机の下で拳を握りしめる。
涙がにじみそうになり、慌てて資料に視線を落とした。
夕方。
コピー室で大量の書類を抱えていた結衣は、バランスを崩して床に散らばせてしまった。
「あっ……」
しゃがみ込み、必死に拾い集める。
そこに差し出された手。
顔を上げると——悠真がいた。
「……部長」
「一人で抱え込むな。前からそうだった」
その言葉に、心臓が跳ねる。
彼の声は、あまりにも「過去を知る人」のそれだった。
「やっぱり……私のこと、気づいてるんですか」
小さな声で問いかける。
悠真の手が、一瞬だけ止まった。
「……ああ。最初から、気づいていた」
胸の奥が熱くなる。
でも同時に、苦しみがこみ上げた。
「だったら……どうして、何も言わなかったんですか」
「君が、必死に隠そうとするからだ。無理に暴いても、余計に傷つけると思った」
結衣は俯き、唇を噛みしめた。
「……私は、許せないんです。美月と抱き合ってたあなたを。誤解だったって言われても、あの光景は私を壊したんです」
涙が頬を伝う。
悠真は強く拳を握りしめ、低く答えた。
「——あれは誤解だ。彼女を慰めただけだ。俺が抱きしめたのは、美月じゃない。ずっと……結衣、お前だけだ」
静かな声。
しかしその瞳には、迷いのない強い想いが宿っていた。
「……っ」
結衣は言葉を失った。
信じたい。けれど、許せない気持ちがまだ胸に残っている。
「ごめんな。もっと早く伝えるべきだった」
「……やめてください。今さらそんなこと……」
声が震えた。
でも心の奥では、ほんのわずかに、氷が解け始めているのを感じた。
夜。
ベッドに横たわりながら、結衣は天井を見つめていた。
悠真の言葉が耳に残っている。
——俺が抱きしめたのは、美月じゃない。
——ずっと……結衣、お前だけだ。
(本当……なの? 本当に、私を想ってくれてたの……?)
涙がこぼれる。
許せない気持ちと、信じたい気持ちが胸の中でせめぎ合う。
指先がシーツをカリカリとこする。
その癖だけが、過去と今を繋ぐ証のようで、切なさが胸を焦がした。
(でも……少しだけ……信じてみてもいいのかもしれない)
揺れる心の中で、小さな一歩が芽生えていた。
オフィスに入った瞬間から、結衣の胸は重かった。
昨日の言葉が頭から離れない。
——「部長は、美月とお似合いですよ」
吐き出した自分の声が耳に蘇るたび、心臓が締めつけられる。
あれは本心じゃない。
けれど許せない気持ちと嫉妬が重なり、どうしようもなく口をついて出てしまった。
(どうして……私はいつも逃げてばかり)
席に着いても手元が震え、文字が頭に入らない。
気づけば、また資料の端をカリカリとこすっていた。
ふと視線を感じ、顔を上げる。
遠くの席から、悠真がこちらを見ていた。
真剣で、迷いを含んだ眼差し。
結衣は慌てて視線を逸らした。
その日の午後、突然の来客があった。
取引先の担当者として現れたのは、美月だった。
淡いベージュのスーツに身を包み、落ち着いた大人の女性の雰囲気をまとっている。
「お久しぶりです、部長」
「……ああ」
悠真が応対する姿を、遠目に見ていた結衣の胸は痛んだ。
やはり二人は、自然に並び立っているように見える。
(また……。やっぱり二人は繋がってる。お似合いなんだ)
机の下で拳を握りしめる。
涙がにじみそうになり、慌てて資料に視線を落とした。
夕方。
コピー室で大量の書類を抱えていた結衣は、バランスを崩して床に散らばせてしまった。
「あっ……」
しゃがみ込み、必死に拾い集める。
そこに差し出された手。
顔を上げると——悠真がいた。
「……部長」
「一人で抱え込むな。前からそうだった」
その言葉に、心臓が跳ねる。
彼の声は、あまりにも「過去を知る人」のそれだった。
「やっぱり……私のこと、気づいてるんですか」
小さな声で問いかける。
悠真の手が、一瞬だけ止まった。
「……ああ。最初から、気づいていた」
胸の奥が熱くなる。
でも同時に、苦しみがこみ上げた。
「だったら……どうして、何も言わなかったんですか」
「君が、必死に隠そうとするからだ。無理に暴いても、余計に傷つけると思った」
結衣は俯き、唇を噛みしめた。
「……私は、許せないんです。美月と抱き合ってたあなたを。誤解だったって言われても、あの光景は私を壊したんです」
涙が頬を伝う。
悠真は強く拳を握りしめ、低く答えた。
「——あれは誤解だ。彼女を慰めただけだ。俺が抱きしめたのは、美月じゃない。ずっと……結衣、お前だけだ」
静かな声。
しかしその瞳には、迷いのない強い想いが宿っていた。
「……っ」
結衣は言葉を失った。
信じたい。けれど、許せない気持ちがまだ胸に残っている。
「ごめんな。もっと早く伝えるべきだった」
「……やめてください。今さらそんなこと……」
声が震えた。
でも心の奥では、ほんのわずかに、氷が解け始めているのを感じた。
夜。
ベッドに横たわりながら、結衣は天井を見つめていた。
悠真の言葉が耳に残っている。
——俺が抱きしめたのは、美月じゃない。
——ずっと……結衣、お前だけだ。
(本当……なの? 本当に、私を想ってくれてたの……?)
涙がこぼれる。
許せない気持ちと、信じたい気持ちが胸の中でせめぎ合う。
指先がシーツをカリカリとこする。
その癖だけが、過去と今を繋ぐ証のようで、切なさが胸を焦がした。
(でも……少しだけ……信じてみてもいいのかもしれない)
揺れる心の中で、小さな一歩が芽生えていた。

