① 序章 ― 新たな現場
午前四時。
都内の静かな住宅街に、サイレンの赤い光がにじんでいた。
一家心中――そう通報された現場のマンションの一室は、異様な沈黙に包まれていた。
ドアを開けた刑事・黒田誠一は、鼻を突く血の匂いに顔をしかめる。
リビングには、四人の家族が並ぶように倒れていた。
父親は首を吊り、母親と二人の子供はリビングの床に寄り添うようにして息絶えている。
窓は固く閉ざされ、外部から侵入した形跡はなかった。
だが、黒田の視線を釘付けにしたのは、その背後の壁だった。
そこには赤黒い染みが、滴るように広がっていた。
それは単なる血痕ではない。
線と線が絡み合い、まるで誰かが意志を持って描いたように、壁一面に広がっていた。
「ほんとうのはんにんは」
黒田は思わず息を呑んだ。
――この言葉を、過去に一度だけ見たことがある。
二十年前の神谷家失踪事件。
そして、数年前に報じられた「血文字事件」。
そのどちらにも、同じ言葉が残されていたのだ。
「……またかよ」
黒田は呻き、懐から手袋を取り出した。
現場検証のため壁に近づくと、その血文字の端に別のものが貼り付いているのを見つけた。
――一枚の古びた新聞の切り抜き。
そこに印刷されていた見出しはこうだった。
「血文字の告白 ――記者・相沢亮介が追った真相」
黒田の背筋を冷たいものが走る。
消息を絶ったあの記者の名が、ここに。
偶然ではない。
血文字は“伝わってきている”。
壁の血文字が、灯りの下でじわじわと広がっていく。
黒田には、その変化が生き物のように見えた。
「つぎは おまえだ」
赤黒い線がそう読める形になった瞬間、
黒田は言い知れぬ恐怖に喉を締め付けられた。
午前四時。
都内の静かな住宅街に、サイレンの赤い光がにじんでいた。
一家心中――そう通報された現場のマンションの一室は、異様な沈黙に包まれていた。
ドアを開けた刑事・黒田誠一は、鼻を突く血の匂いに顔をしかめる。
リビングには、四人の家族が並ぶように倒れていた。
父親は首を吊り、母親と二人の子供はリビングの床に寄り添うようにして息絶えている。
窓は固く閉ざされ、外部から侵入した形跡はなかった。
だが、黒田の視線を釘付けにしたのは、その背後の壁だった。
そこには赤黒い染みが、滴るように広がっていた。
それは単なる血痕ではない。
線と線が絡み合い、まるで誰かが意志を持って描いたように、壁一面に広がっていた。
「ほんとうのはんにんは」
黒田は思わず息を呑んだ。
――この言葉を、過去に一度だけ見たことがある。
二十年前の神谷家失踪事件。
そして、数年前に報じられた「血文字事件」。
そのどちらにも、同じ言葉が残されていたのだ。
「……またかよ」
黒田は呻き、懐から手袋を取り出した。
現場検証のため壁に近づくと、その血文字の端に別のものが貼り付いているのを見つけた。
――一枚の古びた新聞の切り抜き。
そこに印刷されていた見出しはこうだった。
「血文字の告白 ――記者・相沢亮介が追った真相」
黒田の背筋を冷たいものが走る。
消息を絶ったあの記者の名が、ここに。
偶然ではない。
血文字は“伝わってきている”。
壁の血文字が、灯りの下でじわじわと広がっていく。
黒田には、その変化が生き物のように見えた。
「つぎは おまえだ」
赤黒い線がそう読める形になった瞬間、
黒田は言い知れぬ恐怖に喉を締め付けられた。


