④ 第三部 ― 真相への糸口

 夏の終わり、村外れの山林で作業をしていた猟師が、人骨を見つけた。
 それは小さな白骨であり、布切れや錆びた髪留めが傍らに残されていた。

 警察の調べで、骨は神谷結衣のものと判明。
 DNA鑑定が確定的な結果を示し、二十年前の「失踪事件」は、ついに「殺人事件」へと書き換えられた。

 ほどなくして元駐在・山根が逮捕される。
 彼の自宅からは当時の血のついた衣類が発見され、供述は支離滅裂ながらも「自分がやった」と断言した。
 村人たちは口を揃えて「やっぱりそうだったのか」と囁き合い、事件は幕を閉じたかに見えた。

 記事をまとめる相沢の胸には、しかし違和感が残っていた。
 山根の供述には決定的な矛盾があった。
 ――「自分は血文字なんか知らない」
 だが、廃屋の壁には、今も生々しい血文字が浮かび続けている。

 その夜、相沢と美沙は再び廃屋を訪れた。
 壁一面に刻まれた「ゆるして」「ごめんなさい」は、以前よりもはるかに増えていた。
 しかも、新しい文字がひときわ大きく浮かび上がっていた。

 「ほんとうのはんにんは――」

 二人は息を呑んだ。
 警察はすでに犯人を捕まえたはず。
 だが、血文字はなおも真実を語ろうとしている。

 「先輩……やっぱり、この事件……終わってませんよね」
 美沙の声が震えていた。

 相沢の胸にも、言いようのない戦慄が広がっていた。
 血文字は“誰か”の告白なのか――それとも、“何か”がまだ語り足りないのか。