「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」

 


 家具のひとつもない小さな座敷を晃太郎は物珍しそうに見ていた。

 ……こういう人は、なにもない部屋の方が珍しいのかもしれないな、と珠子は思う。

「では、あなたは池田様ではないのですね?」

 晃太郎と向かい合って座った珠子は、そう確認した。

 すると、晃太郎は眉をひそめ、問うてくる。

「お前は池田の顔を知らないのか?」

「はい。
 会ったこともございません」
と珠子は答えた。

「私、借金のかたに池田様の囲われ者として買われたのですが。

 池田様の家の方に買われたので。
 池田様自体は、私の存在を知っているかもよくわかりません。

 何故なら、私のような女を幾人も買い求められているようなので。

 その家令――

 執事というのですかね? 池田家では。

 執事の黒崎さんという方が勝手に見繕っては池田家のご子息にあてがっているらしいんです。

 私のところにはまったく訪ねていらっしゃらないので、囲われ者としてのお給金だけいただいていて、しめしめと思っていたのですが」

 給金……と晃太郎は呟く。