元黒田家の江戸屋敷があった外務省前。
まだ車というものがほとんど走っていない道は、ただだだっ広く、がらんとしている。
早朝、出勤のために歩きながら、晃太郎はいろいろと思索を巡らせていた。
――珠子と何処に行こうか。
珠子も自分も本が好きだから、古書店めぐりもいいかもしれないが。
古書店の娘を古書店めぐりに連れていくというのもどうだろう?
景色のいいところか、美味しいもののあるところの方がいいだろうか?
いや、女性は買い物が好きだよな。
買わなくても眺めているだけで楽しいらしいし。
子どもの頃、よく観工場に連れていかれた。
ずらりと品物の並ぶ観工場は、最近増えてきた百貨店の前身のようなものだ。
最初は楽しいのだが、母と叔母がいつまでもいつまでも見ているので、小さな妹と二人、端の方にしゃがみ込んで、二人が満足するまで待っていた。
懐かしい思い出だ。
女性の買い物は長いので閉口するが、珠子が楽しげに西洋の家具や雑貨などを眺めている姿は、いつまでも見ていられそうな気がする。
……もしかして、俺はわくわくしてないか?
と思ったとき、
「お、岩崎」
と声をかけてきたものがいた。



