家の近くまで来たころ。
晃太郎の話を聞きながら歩いていた珠子は、
「えっ?」
と声を上げる。
「岩崎様は、外務省の方だったのですか?」
「なにかいけないか?」
いえ、そういうわけではないんですけど、と珠子は苦笑いする。
晃太郎は灯りのない古本屋を見つめて言う。
「お前の主人としては、ここでもう一度、家に入るところだろうか」
「お帰りください」
「主人と囲われ者というのは――」
一般常識的な話はいいです。
「お帰りください」
と珠子は笑顔で繰り返した。
どんな無礼な囲われ者だ、と自分で思いながらも。



