「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」

「これじゃあ、お客様が来るまでに並べ終わらないよね、手伝うよ」

 いえあの、問題は、並べ終わるかどうかじゃなくて、この異国行きの船が出てしまったことではないでしょうか?
と思う珠子に、次郎は軽く言ってくる。

「ああ、大丈夫だよ。
 このあとすぐ門司港に寄るから」

「あ、そうなんですね」
と珠子はちょっとホッとした。

 いや、門司港からどうやって帰るんだと思いはしたのだが……。

「珠子さんって、旅券(パスポート)持ってるんだっけ?」

「……お父様に言われて、とってましたけど。
 今、持ってませんよ」

 あれは高飛びするつもりで用意させたのか。

 それとも、一発当てて海外旅行でもするつもりだったのか、今となってはわからないのだが……。

「まあ、旅券、写真が貼ってあるわけでもないしね」
と不穏なことを次郎は言う。

 旅券には人相が文字で記してあるだけなのだ。