「船に本を置きたいんですよ」
上品な紳士、といった風情のその男は、いきなり古書店に現れ、珠子にそう言ってきた。
「藤崎教授に、ここの本が粒ぞろいだと聞きましてね」
ステッキを手にした大柄な男は、親しみやすそうな笑顔を浮かべる。
ああ、教授のお知り合い、と珠子はちょっと警戒を解いた。
「外国の方も乗られる豪華客船なんですが。
ここには珍しい本や貴重な本が破格の値段であるとか」
父の方針で、値段はあまり釣り上げないことにしている。
藤崎教授もそのことは知っていた。
「外国の方にも見ていただきたいなと思いまして。
ああ、洋書の類いもあると、なおいいのですが」
「こちらにございます」
と珠子は男を洋書の棚に案内した。



