「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」

 その呟きに、
「おっ、いるのか? 三条珠子が」
と愉快そうに次郎は言う。

 次郎は次郎という名前が嫌いだった。

「なんで、次男だから、次郎なんだ。
 兄貴なんて、跡取り息子として、甘やかされてるから、気ままだし。

 そのうち、どっかの女と駆け落ちしたり、海外行って帰ってこなかったりするかもしれないだろ。

 俺が後を継ぐかもしれないのに。

 次、みたいな名前はやめて欲しいよな。

 長男は、一郎、次男は太郎とか。
 長男は、一郎、次男は一太とかにすればいいのに。

 なあ?」
といつも言っていた。

「どれだ? 三条珠子」

「……あそこ」
と幸い離れた場所にいる珠子を手で示した。

 だが、あまり教えたくはなかった。

 目鼻立ちがハッキリして体格のいいこの従兄は洋装も似合い、大層ご婦人方に人気だからだ。