「明治大正ロマンス ~知らない間に旦那様が変わっていました~」

 


 三日後の夕暮れどき、晃太郎が店にやってきた。

 一瞬、ビクリとしてしまったが、彼はまっすぐ、壁面に並んだ本の方に行き、迷わず手を伸ばす。

 だが、その指先は止まった。

 形の良い眉をひそめる。

 晃太郎はこちらに向き直り、
「すまない、この本の下巻がここにあったと思うのだが」
と鞄から取り出した本を見せてきた。

 そこでようやく、珠子に気づき、
「お前は、私が好きにしていい珠子」
と言う。

「よくないです」
と言いながら、珠子は読んでいた本を置き、立ち上がった。

 この人、やはり、本のことしか覚えてなかったようだな。

 続きの本がどの店のどの棚にあったかは覚えていても、私のことなんて忘れてそうだ、と思いながら、

「さっき、センセーが来られて、その辺の本、読んでたから、動かしちゃったんじゃないですかね?」

 ああ、これ、と晃太郎が見ていた棚の前に積まれている本の中から彼が探している本を取り出す。