あ、何処かの夕餉の匂い。
ぎっしりと積まれた本の古臭いいい香りに混ざって、焼き魚の匂いが何処からか漂ってきた。
珠子はその匂いを嗅ぎながら、もう今日はお店、閉めちゃおっかな~と思う。
そのとき、開けたままの古本屋のガラス戸から背の高い男が入ってきた。
異国の人のように肩幅がガッシリしていて、彫りの深い顔立ち。
なるほど。
こういう人なら、洋装も似合うよね、と珠子は思う。
よくこの店に来る小粋な大学教授にも似た雰囲気だが、それより、ちょっとピリッとした気配が漂っていた。
男は入り口付近にあった本に目を止め、ページをめくっている。
明治も半ば過ぎ。
まだ江戸の頃のまま、音読で本を読む人も多かったが、男は静かにページをめくっていた。
サマになるなあ。
こういう人は異国に行っても、きっとあまり浮かないよね、と珠子は思う。
さっき、店、もう閉めちゃおっかなとおもったことも忘れ、珠子は、ぼんやり男の横顔を見ていた。



