窓の外には、春の夕暮れが広がっていた。

 研究室に差し込む陽射しは少しずつ傾き、壁の影を長く伸ばしていく。

「そろそろ、行かなくちゃ」

 美咲が立ち上がり、鞄を肩にかける。

「今日は来てよかった。なんだか、学生時代に戻ったみたい」

 そう言って見せた笑顔は、柔らかくて眩しかった。

「……うん。また、来てくれると嬉しい」

 遼は少しためらいながら言葉を選ぶ。

 美咲は軽く手を振り、研究室を後にした。

 扉が閉まると、静寂が戻る。

 だが、それは先ほどまでの「孤独な静けさ」とは違っていた。

 机の上には、コーヒーの染みが残る。

 その痕跡を見つめながら、遼は胸の奥に温かな感覚を覚えていた。

 ――再会は偶然だったのか、それとも必然だったのか。

 答えはわからない。けれど、彼の中で確かなことがひとつだけあった。

 過去の約束はまだ、消えてはいない。

 夕陽に照らされた窓ガラスが赤く染まり、研究室の中に静かな余韻を残していた。