美咲の声が研究室を満たしていた。

 小さなエピソードを語るたび、笑顔が花開き、部屋の空気が軽やかに変わっていく。

 遼は黙ってその様子を見ていた。

 自分の星は数値であり、論文であり、シミュレーションの中で形を変えていくものだ。

 けれど、美咲の星は、人に語りかける物語であり、子どもたちの心を照らす光だった。

 同じ「星」を扱いながら、二人の立場は正反対に思えた。

 堅苦しい言葉でしか説明できない自分。

 失敗すら笑顔に変えられる彼女。

 その対比を意識するたびに、遼は自分の不器用さが際立つようで、胸の奥に小さな痛みが走った。

 けれど同時に、不思議な心地よさもあった。

 彼女がいると、星はただのデータではなく、少し違った輝きを帯びて見える。

 美咲の声に引き寄せられるように、遼の視線は彼女から離れなかった。

(変わらないんだな……)

 そう胸の中で呟いたとき、遼は気づいた。

 ――自分は、彼女と並んで星を見ていたあの頃から、一歩も前に進めていないのかもしれない、と。