春の約束、夏の嘘

ひとしきりコーヒー騒動が収まり、机の上が落ち着いたころ。

 美咲は椅子に腰を下ろし、興味津々といった表情で遼を見つめた。

「ねえ、遼くん。今、どんな研究してるの?」

 問いかけに、遼は姿勢を正す。だが、口から出る言葉は自然と硬くなる。

「えっと……銀河の中心付近にある恒星の分布を数値化して、その進化をシミュレーションしているんだ。観測データとモデルを突き合わせることで、銀河形成の過程を再現できる可能性があって……」

 言いながら、遼はしまったと思った。

 美咲はきっと、こんな専門的な説明を求めていたわけじゃない。

 それでも、彼の言葉は止まらない。

「例えば、恒星の金属量とか年齢分布を解析すると、星がどの時期にどのくらい生まれたのか推定できて……」

 横で美咲は「ふむふむ」と相槌を打っている。理解しているような、していないような。

 遼の説明はますます堅苦しくなり、彼自身も息苦しさを覚える。

「難しいね。でも、なんだか遼らしいな」

 ようやく口を閉じて、遼は苦笑する。

 すると美咲は、くすっと笑って首を振った。

「遼くんが星のことを本当に大事に思ってるのは、ちゃんと伝わったよ」

 その言葉に、遼の胸が少し熱くなった。

 不器用にしか語れない自分を、彼女は笑わずに受け止めてくれる。

 その優しさに、十数年の空白が一瞬で埋まるような気がした。