また別の日、プラネタリウム終了後、ショーが終わり、プラネタリウムの天井に散りばめられていた無数の星々は、静かに姿を消した。館内に明かりが戻り、観客たちは余韻を抱えたまま帰路についていく。ざわめきが引いていくにつれて、広いロビーには落ち着いた静寂が訪れた。

 その一角に、遼はひとり腰掛けていた。

 研究室では決して見せない、所在なげな落ち着かなさを抱えながら。

 本来ならショーを見終えた客と同じように帰るべきなのに、足は動かなかった。

 理由は明白だった。――美咲に、もう少し会話を続けたかったからだ。

 自分らしくない。そう頭の片隅で呟きながらも、心は帰ることを拒んでいた。

 やがてスタッフドアが開き、美咲が姿を現す。制服姿のまま、どこか張りつめていた空気をまといながら、けれど客と話すときとは違う、素の表情をしている。

「待っててくれたの?」

 少し驚いたように目を丸くしたあと、美咲は柔らかく微笑んだ。

「ああ……。その……」

 遼は視線を泳がせ、言葉を探す。

「ショー、よかった。子どもたち、すごく楽しそうだった」

 美咲の表情がぱっと明るくなる。

「ほんと? そう言ってもらえると、すごく嬉しい。……まだ練習中で、うまくいかないときもあるんだけどね」

「そんなふうには見えなかった」

 遼の声は小さく、けれどどこか確信めいていた。
 美咲は少し照れくさそうに頬に触れ、「また来てね」と言った。

「遼に見てもらえると、頑張れるから」

 不意の言葉に、遼は返事を失った。胸の奥がじんわりと熱を帯び、喉の奥に言葉が引っかかる。

 ただ、うなずくことしかできなかった。

 ふたりの間に、静かで温かな空気が流れる。

 その時間がもう少し続けばいい――遼がそう願った、その瞬間。

 「お疲れ、美咲!」

 明るい声がロビーに響いた。

 軽やかな足音とともに現れたのは、制服をラフに着崩した長身の青年――颯真だった。