プラネタリウムを出たあと、美咲が足を止めて振り返った。

「ねえ、ちょっと寄り道しない?」

「寄り道?」

「うん。……ほら、あの公園。覚えてる?」

 指さされた方向に、遼は懐かしい並木道を見た。

 胸の奥が小さくざわつく。

 十数年前、ふたりで何度も駆け抜けた小さな公園。

 そこが彼らの“秘密基地”だった。

 桜並木を抜けると、風に舞う花びらが視界を包み込んだ。

 ベンチに腰を下ろした美咲が、桜を見上げて微笑む。

「ここ、秘密基地にしてたよね」

 遼は思わず笑みをこぼした。

「……ああ。誰にも言わないで隠れてて、勝手に名前つけたりして」

「そうそう。『星見の砦』とか、『流星観測所』とか。子どもながらに大げさだったなあ」

 二人で顔を見合わせ、声をあげて笑う。

 花びらが舞い落ち、美咲の髪にそっと触れる。遼は思わず手を伸ばしかけて、すぐに引っ込めた。

 笑いが落ち着くと、短い沈黙が訪れた。

 けれどそれは気まずさではなく、懐かしさに包まれた静けさだった。

「……あの頃の私たちって、ほんとに星ばっかり見てたよね」

「うん。夜になると、空しか見てなかった」

 美咲が桜を見上げたまま、ふっと目を細める。

「でもね、星も桜も同じだと思うの。綺麗なものは、誰かと一緒に見るほうが、ずっと心に残るんだよ」

 遼の胸に、幼い日の流星群の夜がよみがえる。

 そして言えなかった「約束」の言葉が、また喉元までせり上がる。

 だが、声にはならなかった。

 代わりに遼は、隣に座る美咲の横顔をただ静かに見つめていた。