ドームの天井に映し出された星々が、ゆっくりと流れ始める。

 照明が落ち、解説の声が静かに響いた。

「昔の人はね、空に物語を描いたんです」

 美咲の声はやわらかく、子どもたちの心に直接届くようだった。

「勇者が怪物と戦ったり、恋人たちが天の川を渡ろうとしたり。星座には、たくさんの物語が隠されているんですよ」

 前の席で小さな子が「へえ……!」と息をのむ。その横で母親が優しく頷いた。

「星はね、ただ輝くだけじゃないんです。ずっと昔から、人の心をつないできたものなんです。だから、今夜おうちに帰ったら、空を見上げてみてください。きっと、みなさんだけの物語が見つかりますよ」

 会場がしんと静まり返ったあと、ぱちぱちと拍手が広がった。

 子どもの一人が小声で「ぼくもお願いしようかな」

とつぶやくと、客席に温かな笑いが生まれる。

 その様子を眺めながら、遼は胸に複雑な思いを抱いていた。

 星を語る彼女の姿は、研究室でデータと格闘する自分とはまるで違う。

 彼にとっての星は、無数の数値であり解析の対象でしかなかった。

 だが、美咲の言葉によって、それは「人を笑顔にする光」として息づいていた。

(……やっぱり、変わらないな)

 幼いころ、星に夢中で言葉を紡いでいた美咲。

 その姿が、今こうして目の前にある。

 ただ眩しすぎて、自分がどこまで隣に立てるのか、遼にはわからなかった。