ドームいっぱいに広がる星々を見上げながら、遼はひとり客席に沈んでいた。

 解説の声は、懐かしくも新鮮に耳に響く。

 ――美咲だ。

 子どもたちが歓声をあげるたび、彼女は柔らかな笑みを浮かべる。

 その笑顔は、研究室の堅苦しい空気を軽やかに変えてしまったあの日と同じだった。

 遼は胸の奥に温かいものが広がるのを感じながらも、同時に落ち着かない思いを抱えていた。

(同じ星を見ているはずなのに……)

 自分にとって星はデータであり、数式であり、解き明かす対象だった。

 だが、美咲にとって星は人に語りかける物語であり、子どもたちを笑顔にする光だった。

 その違いが、心に痛みのようなものを生む。

 脳裏に、幼い日の夜がよみがえる。

 流星群を見上げながら、美咲が「ひみつのお願いをした」と笑ったあの瞬間。

 そして自分が胸の奥で誓った願い――「もう一度、一緒に星を見たい」

 いま目の前に彼女がいるのに、遼はその約束を言葉にできない。

 もしかしたら、美咲はもう覚えていないのかもしれない。

 いや、覚えていたとしても、彼女は前に進んでいて、自分だけが立ち止まっているのかもしれない。

 そんな考えが、遼の胸を重くしていった。

 解説が続き、子どもたちの笑い声がドームに響く。

 遼はその明るさに引き込まれながらも、自分が少し取り残されているような感覚を拭えなかった。