「みんな、夏の夜空でいちばん明るい星はどれだと思う?」

 美咲が問いかけると、あちこちから元気な声が飛んだ。

「シリウス!」

「北極星!」

 観客の笑いが広がり、美咲は楽しそうに頷いた。

「どれも有名な星ですね。でも、夏の星空で特に輝くのは――こと座のベガ。七夕でおなじみの、織姫さまの星です」

 ドームいっぱいに青白く輝く星が映し出される。

 子どもたちから「わあ!」と歓声が上がった。

「そして、こちらが彦星さま。わし座のアルタイルです」

 美咲が指さすと、もう一つの星が輝く。

「ふたりは天の川をはさんで離れ離れ。でも、一年に一度だけ、七月七日に会えるんですよ」

 その言葉に、子どもたちがざわめく。

「ロマンチックー!」

「なんかちょっとかわいそう」

「ぼくもお願いしたら会えるかな」

 会場は笑い声で和み、遼は客席の片隅で思わず口元を緩めた。

 ――美咲は星を物語に変えて、こんなふうに人の心に届けるんだ。

「最後に、はくちょう座のデネブを見てみましょう。ベガ、アルタイル、そしてデネブ。この三つの星を結ぶと――」

 天井の星々が線で結ばれ、くっきりと大きな三角形が浮かび上がる。

「はい、『夏の大三角』のできあがりです!」

 拍手が広がり、子どもたちが両手を伸ばして星を追いかける。

 その様子を見つめる美咲は、解説者というよりも、物語の語り部そのものだった。

 遼の胸に、幼い日の記憶が蘇る。

 あの丘で流星群を見上げていた美咲も、こんなふうに星を楽しそうに語っていた。

 変わっていない笑顔と、星を通して人を惹きつける力――。

 遼は無意識のうちに、目を離せなくなっていた。