夏の夜、郊外の小さな丘は、静かな闇に包まれていた。

 草の匂いと虫の声。見上げれば、空いっぱいに散りばめられた星々が、こぼれ落ちそうなほど瞬いている。

 遼と美咲は並んで座り、息を潜めるようにして夜空を見上げていた。

 幼い二人の肩は触れ合い、胸は期待で高鳴っていた。

「わぁ……ほんとに流れてる」

 夜空を横切る光に、美咲の瞳がきらきらと輝いた。

「今日は一年で一番、流れ星が多い日なんだ」

 遼は少し誇らしげに言う。星の本で調べ、この日を待ち望んでいたのだ。

「ねえ、遼くん。お願いごと、した?」

 小さな声に、遼は少し躊躇ったが、胸に秘めていた思いを打ち明けた。

「……美咲と、また一緒に星を見られますように」

 一瞬の沈黙。美咲は驚いたように遼を見つめ、それからふわっと笑った。

「うん。わたしもお願いしたよ。ずっと一緒に星を見たいなって」

 その笑顔に安堵した遼の胸は温かく満たされる。

 だが、美咲は小さく唇を寄せ、もうひと言、囁いた。

「……ほんとはね、もうひとつだけ、ひみつのお願いごとしたんだ」

「ひみつ?」

「うん。大きくなったらね、きっとわかるよ」

 意味ありげに笑う美咲。その頬を流星の光が照らした。

 次の瞬間、夜空をひときわ明るい星が駆け抜ける。

 二人は顔を見合わせ、声を立てて笑った。

 ――その夜交わした約束と、少女のひみつの願い。

 それが未来の二人を導く光になることを、このときはまだ知らなかった。