ここ、か…。
今回のお見合いの場所は、有名な宿だった。
どんな人だろう。まぁ、結婚することにならなかったら、何でもいいけど。

丁寧に襖を開ける。

「お初にお目にかかります。如月優希(きさらぎ ゆき)と申します。」
「こちらこそ。俺の名前は佐々木祐也(ささき ゆうや)です。」

…ゆうや?なんか聞いたことあるような?

顔を上げる。と、見覚えのある顔がそこにあった。

「祐也!?」
「って、優希!?どうしてここに!?」
「…どうしてってねぇ、お見合いしにきたの。祐也だったなら帰るわ」
今更話すなんて、気まずいだけだし、昔のことなんか、もう吹っ切れてるから帰ろ…。
襖を開けて廊下に出た。
「待てよ」
祐也が私の腕を掴む。
「今更、何か」

もう私は、昔の女なんだからほっといてよ…。
彼女いるんでしょ…。
「…っ。ごめん」
手を解いた祐也。
その隙に背を向けて進みながら、
「さようなら」
と言った。
もう関わることはないと思うから。