無敵なお嬢様はだまっていられない! 〜問題児な執事4人を、私がまとめてプロデュース!?〜

 嵐くんとの合同演習から数日。
 公式結果は2位で終わった。それでも、あの『破壊神』と呼ばれた嵐くんが本気で悔しがり、私に「次も頼む」と言ってくれた。
 その事実だけで、私たちの絆は確実に深まっていた。
 
「……次は、もっと精度を上げなきゃ」
 
 私は放課後の教室に残り、タブレットに表示された嵐くんの分析データとにらめっこしていた。
 静まり返った教室に、カツ、カツ、と廊下を歩く優雅な靴音が響いた。――椿さんだ。
 
「……信じられませんわ。あの『破壊神』が、一条とあんなに僅差だなんて。雪城すず、何か怪しいマジックでも使っているのかしら?」
 
 椿さんの声には、いつもの余裕がなかった。
 苛立ちを隠せない取り巻きたちが、不安げに同調する。
 
「意外とやっかいですわね……。他のトラブル・カルテットたちも、最近目つきが変わってきたとか」
「雪城さまは、学園内でも分析力と育成力に長けていると聞きますわ」
「えっ、じゃあ……次の演習、もし雪城さまたちが勝つなんてことになったら……?」
 
 ざわめき始める取り巻きたち。
 その空気を切り裂くように、椿さんの声が氷のように冷たく響いた。
 
「……だったら、その可能性をゼロにしてしまえばいいのよ」
 
 ……えっ?
 思わずタブレットを操作していた指が止まる。
 
「次回の課題は、彼女たちがどれだけ努力しようとも、必ず失敗するように仕掛けてあげますわ! オーホッホッホ!」
 
 ……なっ、なんて卑怯な……!
 正々堂々と戦うんじゃなくて、何か罠をしかけるつもり……!?
 そんなこと、私のプライドが――そして、一生懸命な執事たちの努力が許さないんだから!
 
 私はタブレットをぎゅっと握りしめ、奥歯を噛み締めた。
 でも、私が直接抗議しても、証拠がなければ「被害妄想よ」と一蹴されるだけ。
 そのとき――ある一人の存在が頭に浮かび、にやりと笑った。
 私は特訓本部に駆けこみ、部屋の隅の暗がりにいた夜一くんをビシッと指差した。
 
「夜一くん! あなたに、学園の不正を暴くスパイミッションを命じます!」
「……ひゃっ!? ぼ、ボク、ですか……?」
 
 夜一くんは、今にも消えてしまいそうな声で答えた。
 彼は極度の恥ずかしがり屋で、みんなからでも「空気」と呼ばれている。でも……。
 
「夜一くん。あなたのその気配のなさは、この学園で唯一、椿さんの鉄壁のガードをすり抜けることができる最強の才能なの!」
「……才能、だなんて……」
「椿さんがね、今度の合同演習で不正をしようとしているの」

 夜一くんの目が、わずかに大きく開く。
 
「私たちに罠を仕掛けるんですって。でもどんな罠かわからない。だから、夜一くんにはスパイになってもらって、不正の証拠を掴んでほしいの!」
 
 私が必死に訴えかけると、夜一くんの視線が、ふと横に向いた。
 そこには、熱心にフォームのチェックを繰り返している嵐くんの姿。
 嵐くんは、あの悔しさをバネに、今も汗を流している。
 
「……嵐くんの悔しさや努力を近くで見てきました。他の2人も頑張ってる。ズルされるのは、ボクも……嫌です」
 
 夜一くんの瞳の奥に、小さな、でも確かな意志が宿ったのを、私の目は見逃さなかった。
 
「……わかりました、お嬢様。……僕の影、潜入ミッションに使ってください」
「よしっ! そう来なくっちゃ。……でもその前に、夜一くん。あなたのスキルをさらに研ぎ澄ませるわよ!」