無敵なお嬢様はだまっていられない! 〜問題児な執事4人を、私がまとめてプロデュース!?〜

 パーティーの騒がしさが遠ざかり、白薔薇学園の庭園には、穏やかな静けさが戻っていた。
 夕暮れから夜へと移り変わる空の下、テラスにはやわらかな風が吹き抜けている。
 招待客たちが去ったあと、私は一人、花壇ブロックにもたれて頬を冷ましていた。

 ……心拍数、まだ高いまま。……でも。
 最高の舞台、そして最高の成功だったわ。

 順位とか、結果ももちろん大事。
 だけど、それ以上に大事なことを成し遂げられた。

 胸の奥が、じんわりと熱い。
 そのとき。

「……また難しい顔してる」

 背後から、聞き慣れた気だるげな声。
 振り返ると、ネクタイを少し緩めた朔が、片手にパイプ椅子を持ったまま立っていた。

「別に難しい顔なんて、してないわ」
「してるよ」

 即答。
 少しだけ口元が緩んでいる。

「さっきみたいな顔、もうちょっと見てたかったけど」
「え?」

 思わず聞き返すと、朔は肩をすくめた。

「楽しそうに笑ってた」

 それだけ言って、視線をそらす。
 ずるい。
 そんなこと言われたら、何も言えなくなるじゃない。

「なによ、それ……」

 顔が少し熱くなるのを感じながら、私も目をそらす。
 少しの沈黙。
 風がふわりと髪を揺らした。

「……ねえ。“成功報酬”、少しもらってもいい?」
「え? 報酬って……何よ?」

 問い返した瞬間。
 ぐっと引き寄せられて、距離が一気に近づいた。
 耳元に、低い声が落ちてくる。

「……俺を選んでよ。専属執事」
「……っ!?」
「すずを一番近くで支えるのは、俺がいい。……他の誰にも譲る気ないから」

 名前を呼ばれるよりも近い距離。
 逃げ場なんて、どこにもない。

「……すず」

 その一言で、心臓が跳ね上がった。
 そのとき。

「おいおい、抜け駆けとかナシだろ、朔!!」
「……すず様の背後を守るのは、僕の役目です」
「ちょっと待ってよ! 一番似合うのは僕でしょ?」

 バラのアーチの影から、三人が勢いよく飛び出してきた。

「お嬢! 俺を選べ! 一生、盾になってやる!」
「……無駄な接触は不要です。……僕が最適です」
「もう、みんな必死すぎ。……お嬢様、僕となら毎日が楽しいよ?」

 三人が一斉に詰め寄ってくる。
 さっきまでの完璧な執事たちはどこへ行ったのか。

「ちょ、ちょっと待って! ここ学園よ!? 静かにして……!」

 焦る私をよそに、朔は小さくため息をついて——
 それでも、どこか楽しそうに笑った。

「……ほらね。こいつらも、本気だ」

 そう言って、私の肩に置いた手に、ほんの少しだけ力を込める。

「……だから、選んで」

 静かで、でも逃がさない声。

「……世界で一番優秀で」

「……世界で一番、お前を大事にする執事は——誰?」

 四人の視線が、一斉に私に集まる。
 真剣で、でもどこか楽しそうで。
 どうしようもなく、あたたかい。

 こんなの、答えなんて出せるわけ、ないじゃない。

 私は赤くなった顔を隠すように、空を見上げた。
 夕焼けの名残と、瞬きはじめた星。
 白薔薇学園の空に——
 恋と波乱の気配が、静かに咲き始めていた。