夜一くんの特訓を始めて数日後。
朝のホームルームで、先生の厳しい声が教室に響き渡った。
「次回の合同演習、課題を発表します。内容は――『大階段のロイヤル・エスコート』です」
学園自慢の、白い大理石の大階段。
その階段を、令嬢と執事が手を取り合ってゆっくり下り、ゲストに向かって優雅に挨拶をする。
……まさに。
この学園の女子生徒なら、誰もが一度は夢見る「お姫様みたいな舞台」だった。
「みなさん。エスコートを担当する執事を一名選んでください。……まずは、鳳凰寺さん」
「私は、一条を指名しますわ」
椿さんが迷いなく答えた。
……うん。いつも通りね。
一条くんを選ぶのは、もう予想通り。
「次は、雪城さん」
「私は……天城レオを指名します」
私が名前を告げた瞬間、教室内がざわついた。
それは驚きというより、どこか呆れたような笑いだった。
「えっ、レオ?」「またトラブル・カルテットから選ぶの?」
小さなささやきが広がる。
すると、案の定。
椿さんが扇子を口元に当てて、くすっと笑った。
「あら、雪城さん。彼は見た目は最高だけど、成績はいつも下よね? あんな歩く共有財産とペアを組んで、どうするつもり?」
失礼な! 私の分析によれば、レオくんはまだ自分のポテンシャルの3%も発揮していないのに。
私は何も言い返さなかった。
その代わり、心の中でにやりと笑う。
……今に見てなさい。
放課後。旧校舎の特訓本部に向かう途中で、トラブル・カルテットとばったり会った。
「お嬢様。次の演習、僕を選ぶなんて。君は本当に見る目があるね」
レオくんは手鏡をパタンと閉じると、金色の髪をさらっとかき上げた。
その仕草だけで、まわりの空気がキラキラと輝いた気がする。
……やっぱり、この子もすごい。
「いい? レオくん。今回の課題は、ただ階段を下りればいいってものじゃないの」
私はタブレットを操作しながら言った。
「あなたの……いえ。雪城チームの美学を、全校生徒に見せつけるチャンスなのよ!」
タブレットの画面には、大階段の設計データが表示されている。
「この階段は全部で三十段。段の高さも、幅も、すべて計算されているわ」
私は画面を指差した。
「レオくんのスタイルを一番きれいに見せるための、最高に美しい歩き方のプランを、今夜中に作るつもりよ!」
するとレオくんは、楽しそうに目を細めた。
「僕のスタイルをきれいに見せる……。素晴らしい作戦だ」
ふっと微笑む。
「いいよ。そのプラン、僕が芸術に仕上げてあげよう」
そう言って、レオくんは私の手を優雅に取った。
そして、その甲にそっと唇を寄せる。
「……あら、雪城さん」
背後から、氷みたいに冷たい声が聞こえた。
振り向くと、そこにいたのは椿さんだった。
ななめ後ろには、いつものように無表情な一条くん。
椿さんは扇子で口元を隠しながら、くすっと笑った。
「またトラブル・カルテットを指名するなんて、よほど負けるのがお好きなのですね?」
……また始まった。
私はため息を飲み込んだ。
「大階段は、美しければいいという場所ではありませんわよ。……せいぜい、足元を滑らせて無様に転びませんよう、祈っておりますわ。オーホッホッホ!」
椿さんはそう言い残すと、意味深な視線を一条くんと交わして去っていった。
……足元を滑らせて、ですって……?
私は、さっきの言葉を頭の中でもう一度思い返した。
ただの嫌味にしては、妙に具体的すぎる。
これは――怪しい。
私の罠センサーが、ビンビン反応している。
……椿さん、やっぱり何か仕掛けるつもりね。
私は横に立っていた夜一くんに、そっと視線を送った。
「夜一くん……出番よ。彼女たちの不正の証拠を、すべて掴んできて!」
「……わかりました。……影に、なってきます」
夜一くんが、ふっと人混みの中に溶け込むように消えていった。
レオくんを輝かせるための、裏のミッションが今、動き出した。
朝のホームルームで、先生の厳しい声が教室に響き渡った。
「次回の合同演習、課題を発表します。内容は――『大階段のロイヤル・エスコート』です」
学園自慢の、白い大理石の大階段。
その階段を、令嬢と執事が手を取り合ってゆっくり下り、ゲストに向かって優雅に挨拶をする。
……まさに。
この学園の女子生徒なら、誰もが一度は夢見る「お姫様みたいな舞台」だった。
「みなさん。エスコートを担当する執事を一名選んでください。……まずは、鳳凰寺さん」
「私は、一条を指名しますわ」
椿さんが迷いなく答えた。
……うん。いつも通りね。
一条くんを選ぶのは、もう予想通り。
「次は、雪城さん」
「私は……天城レオを指名します」
私が名前を告げた瞬間、教室内がざわついた。
それは驚きというより、どこか呆れたような笑いだった。
「えっ、レオ?」「またトラブル・カルテットから選ぶの?」
小さなささやきが広がる。
すると、案の定。
椿さんが扇子を口元に当てて、くすっと笑った。
「あら、雪城さん。彼は見た目は最高だけど、成績はいつも下よね? あんな歩く共有財産とペアを組んで、どうするつもり?」
失礼な! 私の分析によれば、レオくんはまだ自分のポテンシャルの3%も発揮していないのに。
私は何も言い返さなかった。
その代わり、心の中でにやりと笑う。
……今に見てなさい。
放課後。旧校舎の特訓本部に向かう途中で、トラブル・カルテットとばったり会った。
「お嬢様。次の演習、僕を選ぶなんて。君は本当に見る目があるね」
レオくんは手鏡をパタンと閉じると、金色の髪をさらっとかき上げた。
その仕草だけで、まわりの空気がキラキラと輝いた気がする。
……やっぱり、この子もすごい。
「いい? レオくん。今回の課題は、ただ階段を下りればいいってものじゃないの」
私はタブレットを操作しながら言った。
「あなたの……いえ。雪城チームの美学を、全校生徒に見せつけるチャンスなのよ!」
タブレットの画面には、大階段の設計データが表示されている。
「この階段は全部で三十段。段の高さも、幅も、すべて計算されているわ」
私は画面を指差した。
「レオくんのスタイルを一番きれいに見せるための、最高に美しい歩き方のプランを、今夜中に作るつもりよ!」
するとレオくんは、楽しそうに目を細めた。
「僕のスタイルをきれいに見せる……。素晴らしい作戦だ」
ふっと微笑む。
「いいよ。そのプラン、僕が芸術に仕上げてあげよう」
そう言って、レオくんは私の手を優雅に取った。
そして、その甲にそっと唇を寄せる。
「……あら、雪城さん」
背後から、氷みたいに冷たい声が聞こえた。
振り向くと、そこにいたのは椿さんだった。
ななめ後ろには、いつものように無表情な一条くん。
椿さんは扇子で口元を隠しながら、くすっと笑った。
「またトラブル・カルテットを指名するなんて、よほど負けるのがお好きなのですね?」
……また始まった。
私はため息を飲み込んだ。
「大階段は、美しければいいという場所ではありませんわよ。……せいぜい、足元を滑らせて無様に転びませんよう、祈っておりますわ。オーホッホッホ!」
椿さんはそう言い残すと、意味深な視線を一条くんと交わして去っていった。
……足元を滑らせて、ですって……?
私は、さっきの言葉を頭の中でもう一度思い返した。
ただの嫌味にしては、妙に具体的すぎる。
これは――怪しい。
私の罠センサーが、ビンビン反応している。
……椿さん、やっぱり何か仕掛けるつもりね。
私は横に立っていた夜一くんに、そっと視線を送った。
「夜一くん……出番よ。彼女たちの不正の証拠を、すべて掴んできて!」
「……わかりました。……影に、なってきます」
夜一くんが、ふっと人混みの中に溶け込むように消えていった。
レオくんを輝かせるための、裏のミッションが今、動き出した。



