病院から走ってきたタクシーが、自宅前で停まった。
車から降りると、二階建ての一軒家がそこにはあった。
建物が新しく見えるのは、親同士が再婚した5年前に建てたからなのだろう。
玄関の周りには小さな花壇があり、おそらく母が手入れをしているだろう草花が、可愛らしく咲いている。
「ただいまー」
母が玄関から呼びかける。
「おかえりー」
父がエプロンをして、玄関まで出てきた。
右手には、焦げたフライパンを持っている。
キッチンの方からは、もうもうと煙が流れてきた。
「あなた、今度は何を焦がしたんですか」
「絵梨花のために、パンケーキを……今、流行っているんだろう?」
得意気に言う父の頬には、煤のような黒い汚れが付いている。
「これは、炭です。食べたら治った体が壊れてしまいますよ」
母がハンカチを取り出し、父の頬を拭く。
夫婦漫才を見ているようで、思わず笑ってしまった。
「焦げたとこ、削いで食べますよ」
削いでみても、中までしっかり炭だったので、三人でまた笑った。
その時、後方の玄関から兄が入ってきた。
「紫苑、どこ行ってたの?」
「……コンビニ」
相変わらずの、無表情。
「お兄さん、ただいま戻りました。これから、よろしくお願いします」
兄に、笑顔で挨拶する。
「……おかえり」
彼はまた、珍獣でも見るような目でこちらを見たが、そのまま二階の部屋の方に上がっていった。
「絵梨花ちゃん、あなたの部屋はこっち」
母は、さっき兄が上がっていった二階に促し、兄の部屋と向かいにあるドアを開けた。
入院の荷物をドアの近くに置き、部屋の中を見回す。
そこにあったのは、いかにも女の子らしい、可愛らしい部屋だった。
全体的にパステルピンクをベースに、花や動物の小物が並んでいる。
ーーこれが本当に、私の部屋?
可愛いのは嫌いではない。むしろ好きな方だ。
だけど、この空間を私が自ら作ったとは到底思えない。
「うーん?」
ドアを背にして立ってみる。
右手にベッド、左手に机。
床には通学バッグらしきものが置いてある。
バッグの中には、教科書数冊とノート、ペンケース。
ポーチの中には、リップと鏡、ハンカチ。
入っているものは、どれも普通。
教科書をパラパラとめくってみる。
現代文はーー読んだことがある。
古文ーーあまり好きではないけど、まぁわかる。
数学ーーすらすら解ける。
社会は地理、理科は生物と化学、英語もーー普通にできるかな。
学習面の心配は、しなくても良さそう。
車から降りると、二階建ての一軒家がそこにはあった。
建物が新しく見えるのは、親同士が再婚した5年前に建てたからなのだろう。
玄関の周りには小さな花壇があり、おそらく母が手入れをしているだろう草花が、可愛らしく咲いている。
「ただいまー」
母が玄関から呼びかける。
「おかえりー」
父がエプロンをして、玄関まで出てきた。
右手には、焦げたフライパンを持っている。
キッチンの方からは、もうもうと煙が流れてきた。
「あなた、今度は何を焦がしたんですか」
「絵梨花のために、パンケーキを……今、流行っているんだろう?」
得意気に言う父の頬には、煤のような黒い汚れが付いている。
「これは、炭です。食べたら治った体が壊れてしまいますよ」
母がハンカチを取り出し、父の頬を拭く。
夫婦漫才を見ているようで、思わず笑ってしまった。
「焦げたとこ、削いで食べますよ」
削いでみても、中までしっかり炭だったので、三人でまた笑った。
その時、後方の玄関から兄が入ってきた。
「紫苑、どこ行ってたの?」
「……コンビニ」
相変わらずの、無表情。
「お兄さん、ただいま戻りました。これから、よろしくお願いします」
兄に、笑顔で挨拶する。
「……おかえり」
彼はまた、珍獣でも見るような目でこちらを見たが、そのまま二階の部屋の方に上がっていった。
「絵梨花ちゃん、あなたの部屋はこっち」
母は、さっき兄が上がっていった二階に促し、兄の部屋と向かいにあるドアを開けた。
入院の荷物をドアの近くに置き、部屋の中を見回す。
そこにあったのは、いかにも女の子らしい、可愛らしい部屋だった。
全体的にパステルピンクをベースに、花や動物の小物が並んでいる。
ーーこれが本当に、私の部屋?
可愛いのは嫌いではない。むしろ好きな方だ。
だけど、この空間を私が自ら作ったとは到底思えない。
「うーん?」
ドアを背にして立ってみる。
右手にベッド、左手に机。
床には通学バッグらしきものが置いてある。
バッグの中には、教科書数冊とノート、ペンケース。
ポーチの中には、リップと鏡、ハンカチ。
入っているものは、どれも普通。
教科書をパラパラとめくってみる。
現代文はーー読んだことがある。
古文ーーあまり好きではないけど、まぁわかる。
数学ーーすらすら解ける。
社会は地理、理科は生物と化学、英語もーー普通にできるかな。
学習面の心配は、しなくても良さそう。
