「……もしかしてあれが、紗南の新しい“推し”ってやつ?」
悠月がステージの方を見ながら、無感情な声で言う。
――あれ? わたし、悠月にリアルで推しができたって話をしたんだっけ?
でも、そういえば……転校することを話しに行った時、絡まれたところを助けてもらったって話をしたような気もする。
「うん! あの真ん中にいる、金髪の人だよ! すっごくカッコいいと思わない!?」
「別に……普通だろ。大したことないじゃん」
「もう、ちゃんと見てよ~。まぁ悠月に分かってもらえなくてもいいけどね」
悠月はステージから目をそらして、興味なさげな顔をしている。
むくれていたら、ちょうど曲が終わったみたいだ。
わたしは、推しをもっと近くで見たくて、ステージの方に小走りで向かう。
「あらためまして! 聴いてくれた皆、ありがとうな~!」
推しがにっこり笑えば、観客席にいる女の子たちから「キャー!」って甲高い声が上がる。
女の子たちが持っているうちわの一つには、大きく“久東星穏”って書いてあった。
くとう、しおんさん――久東星穏さんっていう漢字を書くんだ。
穏やかな星だなんて、名前まで素敵だなぁ。
……っていうか、どうして星穏さんは、ステージで歌ってたんだろう?まるでアイドルみたいだけど……え、もしかして、本当にアイドルなのかな?
不思議に思ったわたしは、集団の後ろの方にいた女の子に話を聞いてみることにした。



