「……あっそ」
「あ、ちょっと悠月! せっかくセットしてきたんだから、崩さないでよね」
「セットっていっても、いつもの三つ編みおさげだろ」
「いいじゃん、この髪型!」
何ていったって、“きらアイ”に出てくるヒロインのカノンちゃんと同じ髪型なんだからね! カノンちゃんのチャームポイントである、伊達メガネもかけてるんだ。
小学六年生の春にきらアイに出会ってから、わたしはずっとこの髪型とメガネスタイルをつらぬいてるの。
「……まぁ、変な虫も寄ってきづらいし、おれとしてはそっちの方が都合がいいけど」
悠月がボソリとつぶやいた。
「何か言った?」
「何でもねーよ。それより、早く行くぞ」
悠月に手を引かれる。
小さい時は私の方が背丈だって大きかったのに、気づいたらあっという間に越されちゃってたなぁ。
春風にたなびく柔らかそうな黒髪を見つめながら、そんなことをしみじみと考えてしまった。



