「あ、えっと…ありがとうございます」
僕は動揺しながらも、彼に渡されたメニューを取る。
彼もまた驚いたような表情をしていた。
まあ、そうだよね。
僕は学校では生徒会長を務めているし、彼だって僕のことを知っているはずだ。
僕はただ噂で君を知ってるだけだけど。
「あの、俺の間違いだったら悪いんだけどさ。もしかして、会長さん?」
「…そうだよ」
彼も僕のことを知っているとわかり、敬語をとった。
月海くんとは同じ学年だけど、教室は別の校舎にあるから接点はない。
なぜかというと、彼は特進クラスの生徒だからだ。
成績優秀なのにバカそうなんて言われてるのは、見た目のせいかな。
確かにチャラそうだもの。
こんなことを感じるのは失礼なんだろうけど。
そんなことを考えていると、彼は元気な声で僕に言った。
「遠目でしか見たことないけど、めっちゃきれいな目してんね!かっけぇ!!」
その言葉を言われた瞬間、何かにはじかれた気がした。
それは、そう言われたことがなかったからかもしれない。
心の中に、何かあたたかい感情が芽生えた。
「そうかな?そんなこと言ってくれるの、君が初めてだよ」
「マジで?!でも、絶対みんな思ってるよ!」
さも当たり前かのように言う彼に、さらに嬉しくなった。
どうしてこんなにあたたかくなるんだろう。
とても不思議だった。
でも、その言葉が今は僕を不安にさせた。
「それは嘘だよ。僕のことを知らないからそんなことを言えるんだ」
つい強く言ってしまって、僕はハッとする。
失礼な態度をとってしまった、と。
「じゃあ、もっと会長のこと教えてよ」
けれど僕の態度にも動じずに、彼はそんなことを言った。
僕はすごく驚いた。
僕なんかに興味を持つなんて、変だと思った。
それと同時に、彼も本当の僕を知れば離れるのだろうという気持ちもあった。
それはやっぱり悲しい。
その時、月海くんはカウンターにいた女性に呼ばれた。
「ちょっと月海くん!長話してないで、早くこっちきてー!!」
「あっ!すんませーん!」
彼はまたねと言って、カウンターの方へ行ってしまった。
なんだったのだろう。
やっぱりなんだか不思議な気分。
その後僕はマフィンと紅茶を頼んで、カフェでゆっくりした。
その時もつい月海くんを目で追ってしまった。
なんでだろう。
刻々と時間は過ぎていき、会食の準備があるので早めに帰った。
彼とはもうこれっきりと思っていた。
まだこの時は。
ーーーーー
「蒼唯様、そろそろお時間です。お客様にご挨拶をお願いします」
悠人にそう言われて、僕は会場に入った。
予定通りの時間に会食が始まった。
会食といっても、パーティーのようなものなのだけど。
どうもこの雰囲気が僕は嫌いだ。
僕には合わないというか。
「これはこれは、蒼唯くんじゃないか」
声が聞こえ、ふと顔をあげたところにいたのは、主催者の方だった。
「お久しぶりです都鳥(ととり)さん」
僕はいつものように笑顔を浮かべて、挨拶をする。
都鳥さんはまあ、ちょっと顔の整ったおじさんって感じかな?
悪い人ではないよ。
距離感は近いけど。
その後都鳥さんとの長話が終わり、会場を見回す。
とその時、会場にはあまり見ない金色の髪が見えた。
珍しかったのでついパッとその人のことを見ると、それは月海くんだった。
「どうして…」
彼が来るような場所ではない。
なら、どうしているのか。
不思議だったが声をかけることはなく、結局なんだったのか分からずに終わってしまった。
そして、彼も僕の存在に気がついていたことは知るよしもなかった。