「鷹栖、準備できた?」
そう言ってひょこっと顔をのぞかせる月海くん。
今日は待ちに待った旅行の日。
といっても、そこまで遠くに行くわけでもないんだけど。
でも、僕にとってはすごく貴重なことだ。
家から出ることはあまり許されなかったから、旅行に行くことなんてまずない。
だから、これは初めての旅行。
しかも月海くんと2人きりなんて、嬉しくないわけがない。
「うん、できたよ。遅くなってごめんね」
「いや、いいよ。ちょうど俺も今終わったし!てか、楽しみすぎていろいろ荷物持っちゃったんだよな〜」
そう言って笑う彼にもドキッとした。
なんだか最近変だ。
こういう何気ない仕草とかにもドキッとしたりしてしまう。
この旅行、しっかり平常心を保って冷静でいないと。
そんなことを考えながら、家を出た。
ーーーーー
「お待ちしておりました月海様。今ルームキーをお渡しします」
ついて早々に僕はあたりをキョロキョロと見回す。
和風な感じの雰囲気がとてもいい。
「鷹栖、ルームキー受け取ったから部屋行こ」
「あ、うん」
月海くんの後ろを歩いて部屋に行く。
部屋について、ドアをゆっくりと開ける。
部屋の中も和風な感じで雰囲気もいいし外もすごくきれいで、秋だから紅葉も見れてさらにいい。
「めちゃくちゃ雰囲気いいね。いい部屋あたったな」
「うん、そうだね」
僕達は荷物を置いて、適当に座った。
「この後は温泉行く?それとも、夕飯先の方がいい?」
「僕が決めてもいいの?」
「もちろん」
僕は少しの間考えた。
「じゃあ、温泉行ってから外を散歩したいな。夜景がきれいって言われてるみたいだし、気になるから。夕飯はその後でいい?」
「いいじゃん、そうしようぜ!じゃあ、さっそく温泉行こう」
僕はうなずいて持ってきたカバンから服やらを取り出した。
2人とも準備ができたところで、鍵を持って部屋を出る。
僕達の部屋は2階で、お風呂は3階だからエレベーターで上へ上がる。
それから、奥へ進むとすぐに風呂が見つかった。
「ここの露天風呂最高らしいよ。俺の友達情報」
そんなことを言って笑うから、すごく期待してしまう。
温泉自体初めてだから。
服を脱いで中に入り、体を洗い終えると湯の方に向かった。
月海くんはまだ体を洗っているみたいだったから、ひと足先に湯に浸かることに。
いくつも種類があってワクワクしてしまう。
子供みたいにはしゃいでるな、と思った。
入るとすぐに体の疲れがとれた。
数分すると、後ろから月海くんの声が聞こえた。
「入るのはやいね。俺、隣にいっていい?」
僕はコクっとうなずいた。
隣に座る月海くんの距離にドキドキした。
服を着ていないから、あたる肩の体温が熱く感じる気がする。
なんか、すごく緊張してる。
そんな僕に気がついていないのか、お構いなしに触れてくる。
「てかさ、鷹栖ってめっちゃ肌白いよね。きれー」
ほほに触れる手がいつもより熱く感じて、クラクラしてゾクっとする。
「ふ……」
驚いたのか自分の口から変な声が出た。
「あっ、ごめん」
あからさまに動揺しながら、月海くんは横を見た。
今、彼は何を思ったんだろうか。
顔を赤くする彼の心情は、恋愛初心者の僕には到底(とうてい)分かるものじゃなかった。