夜を繋いで君と行く

「…ねぇ、可愛すぎない?両想いってこんなに楽しいの?すごいね。」

 律の腕が怜花をぎゅっと抱きしめる。怜花の肩に律の頭がおりてきて、いつもよりも近くで律の声が聞こえる。

「…怜花がこうやってきてくれるの、たまんないね。…好き。はぁー…好き。可愛い。だめだ、語彙なくなる。」

 壊れた機械のように同じ言葉を繰り返す律の吐息が耳に触れてくすぐったい。言葉が言葉だから、くすぐったさ以上に恥ずかしくて、嬉しくて目を閉じる。また律の香りを吸い込んで、温かさに触れて、現実だと少しずつわかってくる。夢でも、過去でもなく、今だ。間違いなく。

 どちらかと言えば律は言葉をすらすら紡ぐタイプで、インタビューや配信などを見た感じだと、仲がいい声優との共演の時は砕けた口調で話すものの、基本的にはかっちりとした言葉を使って誤解のないように話す印象のある人だと思っていた。頭の良さが言葉ににじみ出る、そういう雰囲気があった。それなのに目の前の人ときたら、とてもインタビューには答えられそうにない有様だ。ぐりぐりと怜花の肩におでこを擦りつけて、『可愛い』と『好き』を交互に繰り返している。大型犬のようで可愛いのはどっち?と言いたくなるけれど、恥ずかしくてそれは言えない。
 言えない代わりに、心音がそのまま伝わるように自分の方から律に密着した。

「…怜花?」
「語彙がなくなったら仕事に支障が出ちゃうでしょう?声優、二階堂律が壊れちゃう。…家ではいいけど、外ではやっちゃダメです。」
「…外ではやんない。…こんなの普通に独り占めしたいじゃん。ていうかどうしよう。」
「…何がですか?」

 怜花は離れようかと思って腕の力を緩めたが、怜花の背に回った律の腕が緩まないため、離れることができない。

「…今日、帰さないつもりだけど、そもそも全然離れられない。可愛すぎて離してあげられない。」
「…ふふ。」

 思わず笑ってしまった。ずっと律は素直だったけれど、それはこの人の本質で、そして心の内を吐露してからはその素直さは増すばかりで、甘さがとどまることを知らない。

(本当は前からたくさん言いたいことがあったのに、…ずっと言わないで我慢してたのかもしれない。)

 きっとたくさんの言葉を、何度も飲み込ませた。今からでも一つずつ、飲み込んだその言葉を吐き出させて、耳を傾けてもいいのかな、なんて思って、でもそれは当分言えそうにないなとも思う。