夜を繋いで君と行く

「うー…あの…。」
「何?」
「…せっかく止まったのに、戻ってきちゃうんですけど涙…。」
「え、いいよ?俺がいるときは泣いていいんだから。」
「泣きたくない~…。」

 怜花がそうやって本音を零すと、二階堂は楽しそうに笑った。笑顔が眩しくて、もっとその笑顔を見ていたいのに涙がその邪魔をする。

「…一回泣くと大変だって言ってたもんね。ごめんね、いっぱい泣かせた。こっから挽回させて。」
「…挽回しないでください…追いつけなくなっちゃう…から…。」
「一人で先歩くなんてこと、しないよ。…しない。甘えすぎないように、注意する。やってほしいことも言って。全部叶えられるかはわかんないけど、叶えてあげたいとは思ってるから。」
「…逃げた私を追いかけてきてくれた。…それで充分です。」

 怜花はそっと微笑んだ。こうやってもう一度笑えるようになったのも、目の前に二階堂がいることも、二階堂が怜花に手を伸ばしてくれたからこそできていることで、それ以上を望むなんてことはできそうになかった。

「…ここでそうやって笑うの?ぎゅーって強くやれないタイミングで?…忍耐が求められてるな…。」
「…たくさん、我慢もさせてますよね、私。距離とか…その、いっぱい配慮してもらってたから…。」
「我慢なんてしてない。…やっと捕まえた。…逃がさないよ、ずっと。」

 緩く抱きしめられて、顔が見えないのをいいことに怜花はそのまますうっと涙を流した。少しだけ体重を預けて、二階堂の香りを確かめる。

「…一つだけ、変えたいことがあって。」
「何ですか?」
「あ、一つじゃないかも。でもまず一つ目。…怜花、って呼んでもいい?」
「あ、はい。お好きなようにどうぞ。」
「え、そんなあっさり?」
「何を言われるのかなって身構えたらそんなことでしたか…。二階堂さんが呼びたいようにどうぞ。」
「…その二階堂さんも、変えてもらいたいんだけど。」
「へっ?」

 二階堂の人差し指が、怜花の唇にそっと触れた。不意に近付いた距離に、怜花の体がビクッと少しだけ後ろにのけぞった。

「律。」
「え…?」
「律って呼んで。」

 唐突に名前で呼ぶように言われて唇に緊張が走る。しかし、甘えるような声に抗えなくて、怜花はゆっくりと口を開けた。