しばらく間を置いて、怜花はゆっくりと口を開いた。

「…うーん、そうですね。まぁでも私、里依に幸せになってもらいたい気持ちは結構本物なので、割と寂しくないかも。2人が結婚して、たとえば子供ができたら可愛がれると思うし、私のこと親戚のおばさんくらいに思ってもらって、孤独死しないようになんとなく見ててもらいたいかな、知っててもらいたいというか。」
「突然の孤独死。」
「私、多分一生1人だから、ちょっとそこだけ考えますけど。」
「一生1人なの？」
「はい。間違いなく。」

　怜花は即答した。恋はしない。愛など手に入らない。だったら一人で生きていくしかない。家族はいないも同然なのだから、本当に自分は何かあったときに誰かに見つけてもらえなければ孤独死なのだ。

「それはなんでって聞いたら答えてくれる？」

　軽快だった声のトーンがわずかに落ちた。声の中に真剣さが少しだけ滲んで、そうか、そういえばこの人は声で心を表現する人だったと思い出す。声に心が乗る瞬間を垣間見て、怜花もその真剣さに引っ張られるように静かに話し出した。

「…私がどれだけ真剣に向き合っても、それを返してくれる人には出会えないから。里依は出会えた。それってとっても素敵なことだなって思うし、里依だからだとも思います。だから私は、里依が幸せであることに全力を尽くします。」


＊　＊　＊
　そう言って笑う彼女の表情に嘘は読み取れないのに、二階堂の心は何故か妙にざわついた。だからこそ口をついて出た言葉は、彼女のものに似ていた。

「俺も1人かもしれない。」

　ないない、と立てた手を横に振って、ちょっといたずらっ子のような表情を浮かべた彼女が言葉を続けた。

「二階堂さんこそ、引く手数多じゃないですか？それこそファンなんて、手を出したい放題かなって思うんですけど、芸能人ほどではさすがにないですか？」
「ん〜どうなんだろう。まぁでもとりあえず実は結構長いこと、彼女いないし。がむしゃらに仕事してきたって感じだから、…そうだね、三澄が今は眩しいかな、ちょっと。」
「私はずーっと、里依のこと眩しいなって思ってますよ。」

　太陽の方を見つめる彼女の横顔が少し切なく見えたのに、その時はそれ以上、上手く言葉が続かなかった。