夜を繋いで君と行く

「怜花ちゃん、座ってて。立ってるのが辛そうだから。お湯湧いたらそっち行くから。」
「…わかり、ました…。」

 立っているのが辛いのは本当だった。私がやりますと言えないくらいには、もう体も心も限界だった。
 ソファに座って、テレビの方をぼんやりと見つめる。ここであんなに笑って、適当にお菓子を摘まんで、疲れたから寝ようなんてそんなこと、よくできていたなと思う。あまりにも鮮明に思い出せるものだから、あの日の自分が別人にしか思えなかった。
 思い出を反芻していると、コトンと柔らかく、マグカップが置かれる音がした。

「火傷しないように気をつけてね。」

 怜花は頷いて、そっとマグカップに手を伸ばした。マスカットのほのかに甘い香りを吸い込むと、少しだけ息ができるようになった気がした。ふうと息を吹きかけてから一口、口にする。喉に水分が通ってようやく、喉はもう枯れかけていたのだと気付く。温かさも丁度良くて、マスカットティーが通ったところの体温が回復していくようにも感じる。
 何口か飲み終えて、涙が止まったところで怜花はマグカップをテーブルに置いた。

「…ごめんなさい。連絡一つ、返せなくて。…終わりにしましょうって、私の口から、言えなくて。」
「…待って、ごめん。終わりは、飲めない。…終わりにできない。」

 こんなに絞り出すような二階堂の声は、初めて聞く。怜花の手に、あの夜のように優しく二階堂の手が乗った。怜花はゆっくりと顔を上げた。

「…好き。…怜花ちゃんに対する気持ちが『好き』じゃないなら、それ以外何なのか、俺には説明がつかない。」

 真剣な眼差しの二階堂が、怜花の視界を満たした。ああ、これは逃げられない、と反射のように思う。怜花の心臓が一度、ドクンと鳴った。

「…怜花ちゃんは、少しも俺のこと、好きじゃない…?」

 縋るような声に、せっかく取り戻した呼吸が乱される。声にならない。説明しなくてはならないことも、隠した気持ちもあるのに、言葉が出てこない。息苦しくて逃げてしまいたくて、でもこの手を振りはらうことを心の奥底では望んでいない。振り払ったら、一生後悔する。
 二階堂のこんな表情を、生まれて初めて見た。真剣さの奥に、切実さを感じる。

「…好きじゃなくても、いい。今は。でも、俺は『好き』をやめられない。」

 二階堂の手にぐっと力がこもった。