夜を繋いで君と行く

 目元に、指がそっと触れた。涙を拭う指の動きが止まって、怜花は目を開けた。

「…絶対俺、今日は怜花ちゃんに聞く前に色々言っちゃうしやっちゃうと思うから、先に全部まとめて謝る。…ごめん。」

 二階堂の手が怜花の腕に触れ、そのまま引いた。あの夜よりも弱く引かれたのに、あの夜よりも弱ってしまった怜花はいとも簡単にその胸に収まることになる。怜花の後頭部には、二階堂の手があった。すっぽりと包み込んでくれるその手が優しくて、やっぱり目は開けられそうにないと判断して目を閉じる。頭をぐいっと引き寄せられると二階堂の肩の少し下に顔が押し付けられた。

「…家まで我慢したんで許してー。」

 許すも何も、泣くだけ泣いて何もできないのは怜花の方であるため、そもそも許すとかいう次元にはいない。怜花は返事をすることも何もできずに、ただ抱きしめてくれる温度と優しさを受け取った。受け取ってはいけないものだと、戒める気持ちはなくなってはいないけれど。
 
「…あのさ、軽くなりすぎてない?…心配になるくらい軽いんだけど。」
「…ご飯が、その…食べれ、なくて…。作る気も起きなくて、…ごめんなさい。」

 口をついて出る謝罪の言葉。意味のない謝罪で、何に対する謝罪なのかもわからないが謝っていないと立っていられなかった。

「…ごめん。全部、俺が悪い。…そういうのも含めて全部話すから、泣いててもいいから、…聞いて。それで…。」

 二階堂の腕の力が緩まる。見上げると、二階堂の目が寂しそうに、そして不安げに揺れた。

「…俺が悪いから、…嫌われるようなことを、してるんだと思うしこれからもする、…んだけど…でもできれば…嫌いにならないで、ほしい。」

 不安がそのまま、瞳に映っている。少なくとも怜花にはそう見えた。ただ、その瞳に映っているのは自分で、だからこそその不安は自分のもののようにも見える。
 嫌いにならないでほしい、嫌われたくないという言葉は、二階堂がずっと言っていた言葉だ。そして直接言ったことはないけれど、いつの間にか怜花にもあった気持ちだ。逃げるためには嫌われて、忘れ去られなくてはならなかった。でもそれは痛くて辛くて涙が出た。嫌われたくなかったのは、怜花の方だった。