夜を繋いで君と行く

* * *

 ガチャリとドアが開けられた。殺風景だった玄関には、小さなスノードームが置かれていた。

「…やっぱり男の部屋には似合わない、それ?」
「いえ。…可愛いです。お家の色にも…合ってると思います。」
「そっか。」

 二階堂の手が離れる。どこに行けばいいかわからなくなって顔を上げると、洗面台のところから二階堂がひょこっと顔を出した。

「お湯になったら手洗ってあっためて。」
「…ありがとう、ございます。」

 どうやら先に水を出してくれていたようだ。怜花のところに戻ってくると、怜花の首元からマフラーを取る。

「コートもちょうだい。かけとく。」
「…はい。ありがとうございます…。」

 一つ一つの眼差しが優しくて、息が詰まる。1か月半以上ぶりのこの場所が、懐かしくて痛い。
 お湯に手をさらしながら、鏡で自分の顔を確認する。メイクは剥がれ落ち、クマが隠せなくなっていた。チークも落ちて顔色の悪さは目立つようになってしまい、これならば観察力がなくたって怜花の健康状態が良くないことは明白だった。二階堂は並々ならぬ観察力をもつ人だ、隠せるものはきっとない。

「何か飲む?」
「…いただいてもいいですか?」
「うん。」

 怜花はキッチンに足を運んだ。怜花が渡したタッパーが綺麗に洗われた状態で並べてあるのが目に飛び込んできて、また視界が歪みかけた。この家にあるものの何を見ても、だめなのかもしれない。
 インスタントコーヒーのスティックの箱の横に、見慣れない箱がもう一つあった。未開封のフルーツティーのバラエティセットだった。

「気になるの、あった?」
「これは…。」
「フルーツティー、バーベキューで飲んでたよね。ホットもいけるって書いてたから。同じメーカーだし、味は好みなんじゃないかなって。」
「…はい。マスカットティー、一つもらってもいいですか?」
「うん。」

 そういえばこの家にはマグカップが一つしかなかったことを思い出す。しかし、二階堂の両手にはマグカップが一つずつあった。元々あった白いマグカップ。もう一つは同じデザインで色の違う、ブラウンのものだった。

「これ…。」
「寒くなったから、あったかいもの飲みたくなるなって思って。」
「…そう、ですか…。」

 マグカップを見て泣きたくなるなんて、壊れている。瞬きをして、また涙が落ちて、目を開けたらまた涙が溜まるのが嫌で目が開けられなくなってしまった。