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 『また』は10月に2回開催された。2回目はビーフシチューで、3回目は炊き込みご飯と豚汁というリクエストだった。
 11月に入り、二階堂は忙しそうだった。アニメの収録ラッシュに次シーズンアニメに向けての雑誌撮影、12月頭に控えるライブイベントに向けてのダンスレッスンや歌唱のボイストレーニングなども入ったようだった。怜花を送る頻度も10月からはほぼ週1、そして11月に入ってからは一度も顔を合わせていない。
 LINEの頻度も減った。ただ時折、死にそうな声で電話が掛かってきた。

『今電話大丈夫…?』
「…あの、もしかして外にいますか?」
『あ、後ろの音がうるさい?』
「ああいえ、そこまでではないです。ただ、いつも後ろの音が静かだから…。」
『いつもは家だからね。でも今日は家に帰って座ったときには電話できる時間じゃないなーって思って。』
「忙しそうですね、ずっと。」
『あんまりどころか全然送れなくてごめん。あの変なやつ、再燃しちゃってない?大丈夫?』
「それは全然大丈夫です。あれから一度も話しかけてきませんので。」
『なら良かった。』
「私のことよりも二階堂さんは大丈夫なんですか?その、声が随分お疲れで…。」
『そーなんだよ!すっげー疲れてる。怜花ちゃんのご飯食べたーい。来週はなんとかなりそうだから、1回は迎えに行ける。』
「…直帰しなくて平気ですか?休んでいただいても大丈夫ですよ。土日もイベント尽くしって言ってませんでしたか?」
『そうなんだけど、そろそろ一緒にご飯食べたいし、怜花ちゃんの作ったもの食べたい。』
「…わかりました。何が食べたいですか?少し品数多めに準備します。」
『いいの?』
「お疲れのようですし、体が資本ですからね。食事も休養も大事にしてください。」
『うん。…あのさ。』
「はい。」

 二階堂が電話越しに言い淀むのは珍しかった。少しの間ができて、雑踏の音の中に微かに息の音がした。

『来週会った時、頑張れって喝入れてくれない?背中バシッて叩くみたいな感じで。』
「た、叩く?」
『怜花ちゃんに叩かれたら頑張れそう。』
「あの、その語弊を生むような表現やめてください。叩きませんから。それに、頑張れくらいは今でも言えますよ。」
『じゃあ、お願いします。』
「い、今ですか?」
『今でも言えるって言ったし。来週も聞きたいけど、今言ってくれるなら今も。』
「…頑張ってください。倒れない程度に。」
『うん。ありがと。ごめん、こんな遅い時間に。ゆっくり休んで。』
「そちらこそです。」
『俺から切れないから、怜花ちゃん切って。』
「…わかりました。…おやすみなさい。」
『おやすみ。』