夜を繋いで君と行く

「ひゃ…ほんとうにやった…!くすぐった…。」

 髪をぐしゃぐしゃにされて、自分の髪なのに人にいいようにされるとくすぐったいことをこの年になって初めて知る。いつも手を引いてくれる二階堂の手が頭に触れると大きく感じる。髪はめちゃくちゃになっているし、絶妙に頭も動くしで視界が揺れる。揺れることはいつもなら不安が伴うのに、二階堂の手が起こす揺れにはその不安が生じなかった。

「いいって言ったからね。いいって言われたものは全部やるよ、俺。」
「ふふ、ほんとにくすぐったい…。」
「…。」

 ぴたりと二階堂の手が止まる。怜花が見上げると、二階堂が一度ぽかんとした表情を浮かべた後に柔らかく微笑んだ。

「な、なんですか、その笑い。」
「またそうやって笑ってくれんだって、ちょっと驚いただけ。…やっぱ、そういう笑顔が可愛いよ、怜花ちゃん。…可愛いね。」
「なっ…2回も言わなくていいですから!」

 混じりけのないまっすぐな『可愛い』という言葉がただただ胸を満たしていく。耳がその甘い響きにも甘い声にも慣れなくて、ストレートに顔が熱くなってしまう。

「ごめんごめん。あんまり可愛かったから何も考えずにぽろっと。そんなに照れさせるつもりはなかった。ごめん。」
「…また言った…!二階堂さんの可愛いの使い方は誤用ですからね!…とりあえず、ご飯作ります!」

 怜花はがばっと布団から出て、逃げるように部屋を飛び出した。
 怜花のいなくなった部屋で、二階堂はベッドに背中から倒れこんでいた。両手で頭を抱えて、静かに唸る。

「うー…っはぁー…今の、可愛いって言わない方が無理じゃん?…俺、完全に三澄化してね…?」

 ベッドの上で左右にごろんごろんとのたうち回ってもなお、手には頭に触れた余韻が残る。手に触れ、一度だけ抱きしめ、頭に触れた。近付くと、自分の家なのに自分の家ではない香りがぐっと近くなって『居る』ことを実感する。

「…可愛いって言わないようにするって、なかなかの忍耐じゃん、そんなの。三澄すげーな…。」