夜を繋いで君と行く

 空気を震わせて届いた音が、涙腺を砕いてしまったのかもしれない。抑え込んだはずの涙が戻ってきて、瞬きをしたらそれが落ちてしまいそうだった。過去の彼氏と眠った夜に感じた寂しさや、家族にずっと蔑ろにされていた虚しさ、自分の声が届かないあの空気。それらが一気に纏わりついて、体を急激に冷やしてきた。だから眠れなくて、目も記憶も冴えわたるばかりで、それを解きほぐしたのは二階堂の手だった。
 近付くのは、きっとタブーだ。自分から近付いたのに、男が触れたい部分には何も触らせないのかと問われたら黙るしかない。だからこそ、近付いてはいけない。そう思うのに、この温度に縋りたい自分も同時に居て、その矛盾が怜花をまっすぐに刺す。

「…寒い、のに…あったかさは心地良いと思えるのに…手は、伸ばせないんです。」

 声が震えた。頬を伝う涙は本当に見られたくなかった。だからこそ、もう顔は上げられない。

「…俺が怜花ちゃんに手を伸ばすのは、しても平気なこと?」

 頷いていいのか、わからなかった。これは体を重ねることへの同意なのかもしれない。今は全然そんな気分ではないし、そんな気分だったことなんて過去にもないけれど、二階堂のことを早く寝かせてあげられるのならば、自分のことなんてどうでもいいと思うべきなのだろう。

「…今から俺、勝手なことするけど、嫌いになりそうだって思ったら突き飛ばして。」
「え…?」

 ライトが消されたのと同時に、ぐいっと怜花の手が引かれた。力が入っていなかったせいで、そのまますっぽりと二階堂の胸に顔が埋まった。こんなに至近距離で二階堂の香りを嗅いだのは初めてなのに、自然と目を閉じてしまうくらいにはその香りに慣れていた。

「あったかいでしょ、俺。嫌じゃないなら、このまま眠っちゃいな。…電気毛布だと思えばいいよ。」

 腕から、胸から伝わる熱が怜花の凍りかけた体にじわりじわりと伝わる。二階堂のスウェットを濡らしたくなくて、怜花は目をぎゅっと瞑ったままでいることにした。目を開けたらきっとまた涙が込み上げて濡らしてしまうだろうから。