夜を繋いで君と行く

「物騒なこと、したくないからさ。だからスマホはちゃんといつでも充電して携帯すること。万が一の時、すぐには助けに行けなくても、たとえば知り合いの声聞くだけでも落ち着けるみたいなことあるじゃん?スピーカー越しに警察の真似事だって、声的には出せるよ。いつでもってわけにはいかないけど、電話でもLINEでもちゃんと返すよ。」
「…そこまでしてくれなくて、大丈夫ですよ。」

 可愛くない発言だとわかっていて、でもそれは本心だから自然と口に出てしまう。頼れたらどれだけ楽だろう。心を開けたら、心を開いてくれるかもしれないのに。それでも誰かに伸ばす手を諦めてしまうのはどうしてなのだろう。その答えが出ないまま、ずっと生きている気がする。

「そこまでする必要のない立場だってのはわかってるよ、さすがにね。でもしたいから言ってる。…迷惑じゃないからさ、頭の片隅には入れておいて。頼ってもいい人かもって。」
「…わかり、…ました。」

 押しつけがましくなくて、逃げ道が用意されているような問いかけがしみる。完全に逃してはくれないけれど、今すぐ答えを出さなくてもいい。そういう距離でいてくれようとしていることがわかって、目を瞑ると目頭が熱くなった。それを隠したくて、怜花は布団に頭まで潜り込んだ。

「おやすみ。」

 背後からの声に小さく「おやすみなさい」と返す。それが今の怜花の精一杯だった。

* * *

 背中が小さくて、やっぱり男の自分とは違う、ただの女の子なんだと改めて思う。まっすぐな目に、はっきりとした物言い。そこだけ見ればしっかりとした人なんだ、で済むのかもしれないが、暗い部屋でうっすらと見える肩や背中を見てしまえば、気を張って一生懸命に立っているのだということにも気付いてしまう。
 距離は取らなければならない。たとえば、もう少し近付きたくても。もう少し内面に踏み込みたい、と思ったとしても。一歩間違えれば、3歩下がられるどころの話でなく、彼女の背中すら見えなくなってしまうなんてことも考えられるからだ。

「おやすみ」と掛けた声。それに消えそうなくらい小さな声で「おやすみなさい」と返ってきた。それが可愛くてまた手を伸ばしたい気持ちが膨らんで、どうしようもなくてその気持ちをそっと沈めた。